■■ 味覚障害 ■■
公開 2002.12.05 更新 2003.06.16  更新履歴   HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す


【味覚障害】                


Q1:最近,味覚がなくなりました.どうしたらよいでしょうか?

A:現在,内科で降圧剤内服中とのことで,薬剤による亜鉛代謝障害の可能性もあります.治療が遅れると治りにくくなるので,早期に亜鉛剤の内服療法を行うことをすすめます.

【1】味覚障害の原因

 亜鉛はいくつかの酵素の働きに不可欠な元素です.亜鉛の必要量はごくわずかですが,不足すると味覚障害や嗅覚障害が生じます.

味覚障害は人口の高齢化,亜鉛キレート作用(ミネラルを包み込む作用)の強いポリリン酸やフィチン酸が繁用されている加工食品への増加,偏食,ダイエットなどによって増加しています.

 最も多い原因は薬剤性と食事性の亜鉛欠乏症です.ほかに原因不明の特発性味覚障害,内科的な全身疾患が原因と思われる味覚障害などがあります.

薬剤性亜鉛代謝障害では微量にしかない亜鉛が薬物の「キレート作用により体外へ捨てられるのために亜鉛欠乏症が生じます.

特に高齢者では亜鉛キレート作用を持つ薬剤(降圧薬,脳循環改善薬,抗腫瘍薬,抗うつ薬など)による亜鉛欠乏症に気をつける必要があります.

 舌炎や口内乾燥,糖尿病,肝疾患,腎疾患,消化器疾患,胃切除手術後の貧血なども味覚障害の原因となります.


味覚障害を起こす可能性がある薬剤(亜鉛のキレート作用がある薬剤)
薬剤の分類 薬品例
利尿剤 ラシックス,アルダクトンAなど
降圧剤 フルイトラン,ACE阻害薬,カルシウム拮抗剤など
抗パーキンソン薬 ドパストン,アーテン,コリンホールなど
抗うつ剤 ノリトレンなど
精神安定剤,睡眠薬 セルシン,コントール,セレナール,サイレース,ハルシオンなど
自律神経系作用薬 ハイゼット
制吐剤 プリンペラン
鎮痛剤 アスピリン,ポンタールなど
抗癌剤 フルオロウラシル,アドリアシン,MTX,フトラフール,ビンクリスチンなど
抗結核剤 イスコチン,エサンブトール,PAS
肝疾患治療剤 チオラ,タチオン
ステロイドホルモン プレドニン
免疫抑制剤 イムラン
抗甲状腺剤 メルカゾール,プロパジールなど
痛風治療薬 ザイロリック
糖尿病治療薬 メレリル,グルデアーゼ
抗生物質 ビクシリン,ミノマイシン,バクタなど
抗ヒスタミン剤 ポララミン,ピレチア
抗てんかん剤 アレビアチン、テグレトール
抗真菌剤 ファンギゾン


【2】味覚障害と亜鉛

 亜鉛は体内の多くの酵素活性において重要な役割を担っている身体に必須の微量元素です.

その欠乏により出現する臨床症状の一つとして味覚障害や嗅覚障害があります.

嗅覚障害を味覚障害と訴えて受診する,いわゆる風味障害にも注意すべきです.


【3】味覚障害の検査

●一般臨床検査

 一般の検査に加え,血清中の亜鉛,銅などの微量元素を測定します.特に血清亜鉛値は重要です.

低亜鉛血症の診断は血清亜鉛値が59μg/dl以下とされますが,69μg/dl以下では亜鉛欠乏の可能性が濃厚です.

●味覚機能検査

味覚に関与する神経で,通常臨床的に問題となるのは顔面神経の枝である鼓索神経(舌の前方部分を支配)と舌咽神経(舌の奥の部分を支配)の障害です.味覚検査法もこの二つの神経領域を中心に行われます.

(1)電気味覚検査

(2)濾紙ディスク法検査は神経障害に起因する味覚障害の診断に有用です.

(3)その他:食塩のついた試験紙を舐めさせる簡便な検査法(ソルセイブ)もあります.


●味覚障害の治療

亜鉛の欠乏が原因である味覚障害だけでなく,原因の不明の味覚障害例に対しても亜鉛内服治療は有効です

薬剤性味覚障害に対しては,原因となった薬剤の中止に加えて,亜鉛剤の投与を行います.

末梢性や中枢性の味覚神経障害例では,原因疾患の治療とともにビタミンB12剤やATP製剤などの投与も行われます.

  また,日頃から亜鉛を多く含む食事(カキ,さざえなどの貝類,かずのこ,たらこ,にぼし,肉,レバー,チーズ,抹茶,胡麻,カシューナッツ,アーモンド,ゆば,きなこ,あずき,海苔,昆布など)を心がけることも重要です.

喫煙や飲酒は控えたほうがよいと言われています.

●味覚障害の予後

 味覚障害に対する亜鉛治療の有効率は,発症6ヵ月以内の症例では70%以上と比較的良好ですが,1年以上経過した症例では50%程度に低下しますので,早期治療が重要です.

また高齢者は若い人に比べて治療効果が不良となる傾向がありますが,発症から6ヵ月以内に治療を開始した場合には高齢者でも予後は比較的良好です.


参考資料

日経メディカル 1999年7月号 味覚異常:池田稔(日本大学医学部耳鼻咽喉科助教授)
今日の診療CD-ROM 医学書店 1998年 味覚障害の治療 冨田 寛  日本大学教授・耳鼻咽喉科