公開日 2003.2.21 更新2012.01.18
記事は一般論です。あくまでも参考に留めてください。
心房細動の簡単な解説
正常洞調律
心房細動
心房細動の詳しい説明はこちら

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1)60歳過ぎて脈に乱れがあれば、心房細動に注意
心房細動は脈拍の間隔がバラバラになる不整脈(絶対不整脈)です。高齢者で治療を要する不整脈の中で最もよく見られるものです。
加齢とともに増加し、70歳台で5〜6%、80歳台で8〜l0%の頻度で心房細動が見つかると言われてます。
心房細動の自覚症状は動悸ですが、心拍数が多くない場合は、まったく気づかずに健診などではじめてみつかることもよくあります。
心房細動には、一時的な心房細動(発作性心房細動または一過性心房細動と呼ぶ)と慢性の持続性心房細動があります。
心房細動は、脳梗塞などの動脈塞栓を引き起こす原因となります。
脳梗塞の原因の1/3を心房細動が占めると言われています。

心房細動では心房という心臓の部屋が小刻みに震えるためそこで血流がよどみ、血のかたまりができやすくなります。
血のかたまりは血液の流れに乗って脳の血管に詰まり、脳の一部が死んでしまい脳梗塞(脳塞栓による脳梗塞)になるのです。
心房細動による脳梗塞は動脈硬化による脳梗塞よりも梗塞の範囲が大きく、重症になりやすく、また何度も脳梗塞を繰り返すことが特徴です。
脳梗塞は後遺症を残すことが多いので、脳梗塞後の治療よりも予防が大切です。

2)弁膜症があると心房細動になりやすいが、虚血性心疾患・心筋症・高血圧患者にも多い。

心臓弁膜症や心不全を起こす心疾患や高血圧症があると心房細動になりやすくなります。
心房細動に虚血性心疾患や心筋症、高血圧症などに合併することは少なくありません。
これらの病気を合併していない心房細動もあります(孤立性心房細動)。

3)発作性心房細動の治療は●生活習慣の管理と薬による発作予防、●動脈塞栓の予防

時々心房細動になる人(発作性または一過性心房細動と呼ぶ)は、生活習慣に気をつけましょう。
発作性心房細動は、飲酒、睡眠不足、激しい運動、肥満、過労、ストレス、暴飲暴食、低カリウム血症などが引き金になります。
アルコール飲料では、ビール一杯でも発作が起こることがあります。
低カリウム血症は利尿剤による副作用として起こることが一番多いので、心不全治療薬としての利尿剤や高血圧治療薬(降圧利尿剤)を服用している人は注意が必要です。
また、甘草を含む漢方薬の長期連用でも低カリウム血症起こすことがよくあります。
  さらに発作予防の薬自体は心不全を悪化させる可能性があるので、心不全を繰り返す人は薬の種類や量に注意が必要です。
発作性であっても脳梗塞を起こす頻度は、持続性心房細動と大差ありません。軽くみないようにしましょう。 

4)持続性心房細動は●心拍数のコントロールと●脳梗塞の予防が治療の鍵

 慢性の持続性心房細動の治療のポイントは、●心拍数のコントロールと●動脈塞栓の予防です。 
慢性化した心房細動はほとんど通常の治療では元に戻りません。元に戻す必要性も高くありません。
しかし、脈拍数が多い場合は、それ自体で心不全になりますので、心拍数をコントロールする薬を使います。
心拍数が適正に保たれていれば、よほど弱った心臓でない限り、全身の血液循環に及ぼす影響は軽度です。
この場合は、心臓の症状はあまりありませんが、脳梗塞などの塞栓症を起こし易いので、対策が必要です。
心房細動と言われたら、たとえ症状がなくても放置せず、一度心臓専門医の診察と指導を受けることを勧めます。
心拍数コントロールのために「ジギタリス」や「β遮断薬」を使い、動脈塞栓予防のために「抗凝固薬」を使いますが、
2010年日本国内の研究で「抗血小板薬」はかえって良くないと言われるようになりました。

5)心房細動の診療では、ほかにどんなことに注意するのですか

 発作性心房細動では、発作の誘因を排除する生活指導を行います。
持続性心房細動では、心拍数が適切かどうか判断し、さらに基礎心疾患の有無を「心エコー/ドプラー検査」によって調べます。
また、甲状腺の病気が隠れていないかどうかも注意します。
年齢や基礎疾患の種類を考慮し、動脈塞栓のリスクを評価し、リスクに応じた予防法を提唱します。

6)脳塞栓予防にはワーファリン療法がお勧め、将来は開発中の新薬が中心になるかも

 同じ心房細動でも脳梗塞になりやすい人とそうでない人がいます。
心房細動があって、脳梗塞になりやすいと判断された人は予防のための薬を飲み続けることをおすすめします。
特に危険性が高いと判断された患者さんには、できない理由がないかぎり、「ワーファリン(ワルファリンとも呼ぶ)」の
内服による抗凝固療法をおすすめします。
危険性の高い心房細動の患者さんとは、「脳梗塞を起こしたことがある人」、「心不全」、「弁膜症」、「肥大型または
拡張型心筋症」、「ペースメーカー植え込み」、「虚血性心疾患」、「高血圧」、「糖尿病」などを合併した人たちです。
  なお、年齢も動脈塞栓の危険性に影響する大きな要素です(心房細動の詳しい説明を参考ください)。
動脈塞栓の危険性が中等度以下の人には、抗凝固薬よりも弱い「アスピリン」を少量処方することがあります。
動脈塞栓は、「アスピリン」で約20%減、「ワーファリン」で約70%減少すると言われています。
ただし、この数値はどのような人を対象にするかによっても大きく変化します。
「アスピリン」は「ワーファリン」に比べて、管理が簡単で副作用も少ないのですが、動脈塞栓予防効果ははるかに劣ります。
  ワーファリン療法は、●脳出血などの出血性合併症、●定期的な血液検査が必要なことなど管理が面倒なことにより、特に専門外の医師はいまだに消極的です。
しかし、ワーファリン療法は出血の副作用は増えないわりに、しっかりと脳梗塞の予防ができるとの認識が近年広まってきました。
現在では、心房細動の動脈塞栓の予防にはワーファリン療法が世界の標準となっています。
ワーファリン療法は、「きちんと管理すれば副作用の危険性よりは、恩恵のほうがずっと大きい」と考えられます。
ただし、あくまでもきちんと管理できることが条件です。

 ワーファリンの適量は、食事の種類や量、体質などによっても変化するので、定期的に血液検査を受けなければなりません。
また、ビタミンKを多量に含む納豆、クロレラ、青汁などの食品はワーファリンの効果をなくしてしまうので、食べてはいけません。
  一方、キャベツ、ブロッコリーなどの野菜もビタミンKを含みますが、普通に食べる回数・量ではほとんど問題になりません。
3度も重症の脳塞栓を起こした心房細動の人なのに、ワーファリン治療開始後より15年以上再発がない人もいます。
きちんと管理すれば、脳塞栓症も決して怖くない病気なのです。
なお、頻回にわたる血液検査によるチェックを必要としない新しい薬剤が、数年以内に使えるようになるものと思います。
現在、この薬は治験中です。肝機能障害が多いことが難点のひとつですが、塞栓予防効果はワーファリンと同程度とされています。

2003.2.18記 2012.01.18更新