【レクチャールームNO.5】-後編-

  公開日2005.02.08 更新日2005.03.08  TOPへ 左メニューを隠す 前編へ
このサイトは参考となった講演会の内容を紹介しています。

 糖尿病患者のSick Dayの対応について
- (後編)- 
2004年12月「山口DM草の根会」での講演
「山口DM草の根会」は綜合病院山口赤十字病院の村上嘉一先生の指導のもとに同病院の糖尿病チームが地域の糖尿病診療の底上げを目的に、院外の「糖尿病に興味のある医師およびコ・メディカルスタッフ」を対象に行っている勉強会です。同病院は現在「糖尿病診療において病院と診療所の併診」に取り組んでいます。

お断り:このサイトの講義対象は医療従事者です。ある程度の専門知識が必要で、一般の方や患者さん向けではありません。


【6】シックデイの内服薬の調整方法 ---------  講師:綜合病院山口赤十字病院薬剤師 田村敦子

内服薬の調整方法についてです。


患者さまは「ご飯が食べれない=血糖値は上がらない」と思って
経口薬を勝手に中止してしまうケースがあります。
実際にはかなり高値を示すこともあり、シックデイでは血糖値が
一般的に上昇すること、したがって「薬を飲まなくてもよい」との
認識を持たないことを普段から指導する必要があります。


【7】シックデイの経口薬の場合、その1


インスリン分泌を促すSU剤各種とナテグリニドについてです。


 食事が普段どおり摂れる場合は薬を特に減らす必要はありませんが、食事の量が減った場合、薬が通常量では低血糖の危険があります。
 食事の量が半分程度であれば薬も半量にし、食事が1/3にも満たないような場合は内服を中止にします。


 
【8】シックデイの経口薬の場合、その2

α-グルコシダーゼ阻害剤も、食事が普段どおり摂れる場合は薬も通常どおりで構いません。
 食欲不振、嘔吐、下痢、腹痛など消化器系の急性疾患の場合、消化器系の副作用が増強するので症状が完全に消失するまで中止します。


【9】シックデイの経口薬の場合、その3

ビグアナイド剤も食事が普段どおり摂れる場合は、薬も通常どおりで構いません。
 しかし、食事が摂れず、発熱、嘔気・嘔吐、下痢がある場合は乳酸アシドーシス発現の危険を考慮して服用を中止にします。
 また、インスリン抵抗性改善薬のアクトス錠はシックデイの間、念のために中止にしても構いませんが、短期間の中止は薬効に影響しないため、中止にする必要性が低いと思われます。


【10】シックデイのインスリン量の調整方法

インスリン量の調整方法です。

 1型の場合と2型の場合に分けていますが、1型場合は主に強化療法をされている場合について、2型の場合は主に混合型製剤を用いている場合について、と考えます。


【11】シックデイのインスリン量の調整方法-1型糖尿病の場合

シックデイではインスリン抵抗性が増大するため、通常よりインスリン需要量が増えます。たとえ通常の食事が摂れない場合でも、インスリン注射を継続することが大原則で、1型の場合、安易にインスリン注射を中断したり減量するとケトアシドーシスを引き起こし大変危険です。
血糖自己測定(SMBG)を1日4回以上行い、通常のインスリン量を調節する必要があります。
 
基礎分泌に相当する中間型、超持続型製剤は食事量に関係なく通常量を実施します。たとえ食事の量が1/3以下になっても基礎インスリン量として、通常量の1/2は必要とされているからです。
追加分泌に相当する超速効型・速効型製剤は食事量と血糖値によって調節します。


調節方法は以下のようになります。
まず、食事量と各食前の追加分泌インスリンの指示単位をかけ合わせます。・・・(1)
次に、測定した血糖値によって追加分泌インスリンの増量分を計算します。・・・(2)
(1)(2)を足してシックデイのインスリン量が決まります。
例をあげてみます。
超速効型インスリンを各食直前に6単位、超持続型インスリンを眠前に4単位でコントロール中。お昼頃、食事が半分程度摂れ、血糖値が300mg/dlの場合。 食事量 × インスリン基本量 =(1)
        0.5 × 6単位 = 3単位
血糖値が300mg/dlなので、スケール(血糖値による調節量)はインスリン基本量の30%です。
       インスリン基本量 × 30% = スケール分6単位 × 0.3 = 1.8単位=(2)
(1) にスケール分(2)を足して最終的に必要な単位を算出します。
(食事量×インスリン基本量 ) +スケール分(インスリン基本量×30%) = 現時点での必要量
      (1)+ (2)=3単位 + 1.8単位 = 4.8単位≒ 5単位
上記のような状態では5単位必要となります。
なお、眠前の超持続型インスリンは調節することなく、指示量を打ちます。
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このスケールは食事量が5割程度もしくはそれ以上の時には有用と思われますが、極端に食事量が少ない場合は、3〜4時間毎に1〜2単位の糖質を摂りながら血糖のチェックをし、200mg/dL以上なら2〜4単位の速効型または超速効型を打ち、血糖値を200〜300mg/dLくらいに保つようにします。


 
【12】シックデイのインスリン量の調整方法-2型糖尿病の場合

 2型の場合、ある程度内因性インスリン分泌が保たれているので1型ほど緊急性は高くありません。
しかし2型でも、著しく内因性インスリンが枯渇していて強化療法が適応となるような場合は、1型の対処法に準じます。ここでは混合型製剤の2回打ち、または混合型製剤と速効型製剤を組み合わせた3回打ちの場合で考えます。
調節方法は以下のようになります。
まず、食事量とインスリン基本量をかけ合わせます。 ・・・(1)
次に、測定した血糖値による調節分(2)を算出し、 (1)に足します。
例をあげてみます。
30R製剤を朝12単位 、夕6単位 使用しコントロール中。朝食が5割程度摂れて、血糖値が320mg/dlの場合。
食事量 × インスリン基本量 = (1)
   0.5 × 12単位 = 6単位
血糖値320mg/dlでのスケール(血糖値による調節量)分はインスリン基本量の50%です。
インスリン基本量 × 50% = スケール分=(2)
   12単位 × 0.5 = 6単位
(1)にスケール分を足して最終的に必要な単位を算出します。
(食事量×インスリン基本量 ) + スケール分(インスリン基本量×30%) = 朝のインスリン必要量
(1)+ (2)=6単位 + 6単位 = 12単位
この場合は特に増量も減量もする必要がありません。

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