【レクチャールームNO.2】-前編-

  公開日2004.12.02 更新日2004.12.08  TOPへ 左メニューを隠す 後編へ
このサイトは参考となった講演会の内容を紹介しています。

 糖尿病の運動療法 
- 特にレジスタンス・トレーニングに注目して(前編と後編)- 
2004年8月糖尿病「山口DM草の根会」での講演
「山口DM草の根会」は綜合病院山口赤十字病院 の村上嘉一先生の指導のもとに同病院の糖尿病チームが地域の糖尿病診療の底上げを目的に、院外の「糖尿病に興味のある医師およびコ・メディカルスタッフ」を対象に行っている勉強会です。同病院は現在「糖尿病診療において病院と診療所の併診」に取り組んでいます。

講師:・綜合病院山口赤十字病院理学療法士 林理恵

 本解説は2004年8月に行われた糖尿病「草の根会」の講演の一つ「糖尿病のレジスタンス・トレーニング」の原稿を元に一部修正して掲載しています。医師である我々にとってはあまり聞く機会の少ない新鮮な講演内容でした。その場限りではもったいないと思い、ここに演者の協力を得て、公開することにしました。講演者のご協力を感謝いたします。なお、スライド画像はホームページ用に一部修正、変更されています。


  現在当院では糖尿病の教育入院の一環として糖尿病教室を開催しています。トレーニングは2週間を1クールとしています。
  1週目に「トレーニングの理論と実際」という糖尿病に関するトレーニングの全般について、約1時間講義をしています。
  2週目ではレジスタンス・トレーニングのみ前半15分の講義、後半15分の実技を行なっています。場所が狭くて、立位、座位での運動しか出来ないことや年齢がばらばらで強度設定が難しいことを実感しています。
  この教室ではレジスタンス・トレーニングの重要性を理解し、方法論(呼吸を止めない、反動をつけない)を覚えて帰っていただくことを目的としています。今回は、最近注目されているこのレジスタンス・トレーニングを、まず医療関係者に理解していただくようにお話ししたいと思います。

【1】糖尿病の運動の種類  

糖尿病の運動の種類として、現在効果があると認められているものがこの有酸素運動と体操、レジスタンス・トレーニングです。

認知度を丸の大きさ、実行度を丸の高さで示しています。

有酸素運動が一番よく知られていて、実践されています。

レジスタンス・トレーニングが一番実行されてないのではないかと思います。

【2】レジスタンストレーニングとは  

レジスタンスは「抵抗」という意味ですので、レジスタンス・トレーニングとは、「抵抗運動」ということになります。つまり、負荷をかけて筋力、筋持久力を高める運動のことです。

 負荷として重りやダンベル、ゴムチューブなどを使いますが、写真のような器械(油圧)を使ってできる施設もあります。

【3】レジスタンス・トレーニングが注目され始めた理由  
 糖尿病のトレーニングとして、レジスタンス・トレーニングが最近注目され始めた理由は、色々な効果が解明されてきたためです。
  レジスタンス・トレーニングというとスポーツをする人はもちろん元気な人が健康のために行ったり、怪我をした人がリハビリとして行うイメージが強かったと思います。しかし、最近になって糖尿病や加齢変化、呼吸器疾患対して効果があることがわかってきたのです。
 レジスタンス・トレーニングは、糖尿病では糖・脂質の代謝を促進します。加齢とともに落ちた筋力や体力のため生じる日常生活能力の低下や障害を予防します。呼吸器疾患では運動耐容能を向上させます。
 また以前は高齢者や高血圧、循環器疾患の方は危険なので行ってはいけないと考えられていました。しかし、方法に注意すれば安全であることが証明され、むしろ好ましい効果があると認識されるようになりました。
  呼吸器疾患、高血圧、循環器疾患などは高齢の方に多いので、レジスタンス・トレーニングは実は高齢者ほど習慣づけていただきたい運動なのです。

【4】背景  

厚生省では1997年の「生涯を通じた健康づくりのための身体活動のあり方」を発表しています。この中で健康に暮らす為の条件の一つとして、レジスタンス・トレーニングの具体案が取り入れられています。

【5】レジスタンス・トレーニングの効果  

糖尿病に効果があるとされる「体操」、「有酸素運動」、そして「レジスタンス・トレーニング」の共通点と相違点をまとめています。

【6】レジスタンス・トレーニングと体操  

レジスタンス・トレーニングと体操で共通する効果としては障害・事故の予防効果があります。

 体操の場合は「運動の始まりと終わりを身体に教える」という意味で障害等を予防しますが、レジスタンス・トレーニングの場合は「筋力をつけることで関節の負担を減らし、筋ポンプ作用の促進で身体の順応性をよくします」。

【7】レジスタンス・トレーニングと有酸素運動  

レジスタンス・トレーニングと有酸素運動で共通する効果は血糖値の急性降下が見られることです。血糖値の急性降下とは運動によるインスリン様作用のことです。

 レジスタンス・トレーニングを3〜4種目中等度の負荷をかけて10〜12回3セット1分以内の休息、有酸素運動時と同じ心拍数で行った場合に、インスリン不在の状態でも血中の糖が急速に筋肉内に取り込まれます。

【8】レジスタンス・トレーニングの特有の効果  

 レジスタンス・トレーニング特有の効果として、筋力・筋持久力を上げます。そのため怪我をしにくい身体、体力のある元気な身体をつくることができます。筋肉量増加とともに、基礎代謝もあがります。基礎代謝があがると安静時にも遊離脂肪酸を消費し、太りにくく、やせやすい身体をつくることができます。

【9】筋内の糖貯蔵量の増加  

 レジスタンス・トレーニングの糖尿病に与える重要な効果としては、筋内の糖貯蔵量が増やすことがあります。筋肉の中には糖をためこむ貯金箱があり、筋肉を鍛えて筋線維が肥大すると一緒に貯金箱も大きくなります。それによって、一度によりたくさんの糖分を溜め込むことができるようになり、結果的に血糖値が下がります。

【10】レジスタンス・トレーニングの注意点  

 実際にレジスタンス・トレーニングを実施する場合に気をつけなければならないことが3つあります。
  1つ目はまず医学的な検診を行うこと。レジスタンス・トレーニングは、有酸素運動よりも適応者は多いと思います。重さを軽くさえすればベッド上で寝た状態でもできるからです。しかし、痛みがある方は医学的に問題ないかチェックしてもらう必要があります。
  2つ目は運動中は呼吸を止めないこと。重りを持ち上げる時に、息を止めて力んで持ち上げる人を見ますが、血圧の上昇により心臓への負担増加がおこります。どうしても息が止まる場合には重りを軽くしましょう。運動するときの呼吸法は腹式呼吸がよいでしょう。
  3つ目は反動をつけないこと。反動をつけると筋や靭帯を痛める恐れがあります。重りは勢いで動きますが、実際の筋力発揮は不十分で、効果が低下します。

【11】腹式呼吸  

 腹式呼吸は鼻から吸って口から吐きます。
吸うときにおなかは膨らみ、吐くときにおなかは凹みます。はじめにゆっくり息を吸っておき、腕や脚を挙げるとき、力を入れるときに息を吐きます。動きを止めたときに息を吸って下ろすときは息を吐きます。

【12】レジスタンス・トレーニングの処方  

では実際にどういう風に運動するのかみていきます。
レジスタンス・トレーニングする時に考えなければいけないのは、運動の「種類」、「強度」、「繰り返し回数」、「頻度」の4つです。どういう風な運動するか。つまりどこの筋肉を鍛えるか。それから強度、や重りの重さはどのくらいにするか。何回繰り返すか。週に何回ぐらいするか。いまから順にお話ししたいと思います。

【13】種類  

まず種類についてです。

 本にはたくさんの種類の運動が紹介され、多すぎてどの運動をしていいのかわからない方が多いと思います。目的によってどの運動を選ぶか決めます。痛いところを治したい、体力をつけたい、ゴルフがうまくなりたい、やせたいなどいろいろ要望があると思います。

【14】種類  

 当院の糖尿病教室では4つほどに分類して指導しています。
  糖尿病の方にやって欲しいトレーニング。それから肩・腰・膝とそれぞれ痛みを和らげるためのレジスタンス・トレーニングです。特に腰や膝の深刻な痛みの方は有酸素運動ができないという現実があると思います。これらの方は、まずはレジスタンス・トレーニングで痛みを和らげてから有酸素運動を始めることをお勧めします。ただし進行した疾患の方はレジスタンス・トレーニングだけでは、痛みが改善しないこともあります。また運動によって痛みがかえって憎悪する場合もありますので、その場合は中止して医師の指示に従ってください。

【15】大きな筋肉を強化する  

糖尿病患者の筋力強化は糖・脂質代謝の側面からなるべく大きな筋肉を強化することがポイントです。体の筋肉を大きく4つに分けてトレーニングを行います。腹筋、背筋、上肢、下肢の4つです。それを個人の体力に応じて3段階の強度から選びます。

【16-1】腹筋 - レベル1 -  

左図のように座った状態で、片方の足を持ち上げる(膝は軽く曲げておく)。あまり、高く挙げすぎないようにする(踵が浮くぐらい)。3秒間止めて、ゆっくりおろす。反対の足で同様に行う。

【16-2】腹筋 - レベル2 -
両膝を立てる。肩が少し浮くぐらい上半身を起こす。
【16-3】腹筋 - レベル3 -
両膝を立てる。肩胛骨が浮くように、上半身を起こす。必ずしも上半身を最後まで曲げる必要はない。

【17-1】背筋 - レベル1 -  

足を交互に挙げる片方の足全体を床から浮かす。膝は伸ばしておく。3秒止めて、ゆっくりおろす。反対も同様。

【17-2】背筋 - レベル2 -
左手と右足を同時にあげて、3秒とめて、ゆっくりおろす。次に。同様に右手と左足をあげて、3秒とめて、ゆっくりおろす。
【17-3】背筋 - レベル3 -
両手両足を同時に挙げる。 3秒とめて、ゆっくりおろす。

【18-1】上半身 - レベル1 -

四つ這いの状態で、腕立て伏せする。

【18-2】上半身 - レベル2 -
膝をついて、股関節を伸ばした状態で、腕立て伏せする。

【18-3】上半身 - レベル3 -
つま先をつけて、普通に腕立て伏せする。

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