【大動脈弁狭窄症】aortic stenosis   公開日2004.7.14 更新日2004.8.30
 正常大動脈弁と狭窄大動脈弁  大動脈弁狭窄症の症例 左メニューを隠す TOPへ

 大動脈弁狭窄症とは、大動脈弁の開放が制限される病気である。弁尖に炎症性反応、癒着および硬化・石灰化が生じて、弁の狭窄が生じる。 大動脈弁狭窄症の原因は、1)加齢変性、2)先天性、3)リウマチ性に分けられる。
【疫学】
 この20-30年で小児期にかかるリウマチ熱によるリウマチ性弁膜症は激減した。その一方で、加齢に伴う弁尖の硬化による高齢者の弁膜症が増えた。非リウマチ性の大動脈弁狭窄症の発症年齢には2つのピークがある。
  ひとつは本来三尖あるべき大動脈弁が、生まれつき二尖しかない(大動脈二尖弁)ために、機械的な刺激を受けて、弁の硬化や癒着が生じる場合で、成人期から症状が出現する。
  もう一つは加齢に伴う弁尖の硬化による場合である。正確な発症頻度は不明であるが、65歳以上でみられ、加齢とともに増加する。 男性よりも小柄な体格の女性に多い。大動脈弁狭窄症の発症には動脈硬化症の危険因子の高コレステロール血症も関係すると考えられている。加齢に伴う硬化による大動脈弁狭窄症は、僧帽弁輪石灰化を伴うことが多い。
【症状・診断】
 症状は労作時の息切れや労作時の狭心症、心不全などである。無症状だが、心雑音により発見されることも多い。この場合、第三肋間の胸骨左縁または右縁を最強点とする収縮期雑音を聴取する。心雑音は血流に乗って、頸動脈の部位で聴取できることもある。心雑音の周波数がそろって、楽音様に聞こえる症例もある。 診断には心エコー/ドプラー検査が大変有用である。
  連続波ドプラ法で計測した最大圧較差からみた重症度の目安は、50mmHg未満であれば軽症、 50〜90mmHgであれば中等症、90mmHg以上であれば重症である。64mmHg以上は重症とした報告もある。 しかし、左室収縮能低下が進行して心拍出量が減少した場合には、 圧較差は減少するので、圧較差だけでは重症度を過小評価してしまう。 逆に大動脈弁逆流を合併すれば、狭窄が中等度でも圧較差が高度になり、過大評価となる。 このように圧較差だけで大動脈弁狭窄症を正確に評価することは困難である。 このため、大動脈弁狭窄症の重症度評価指標には複数の報告がある。
重症大動脈弁狭窄症のいくつかの基準 文献3)
1)弁口面積で0.75cm2以下
2)弁口面積で1.0cm2以下
3)弁口面積を体表面積で除した値が0.6cm2/m2以下
4)最高血流速度(ドプラー法)4.5m/s以上(=最大圧較差64mmHg以上)
5)最大弁間圧較差75mmHg以上
6)左室流出路と大動脈弁口での時間速度積分の比が0.25以下
【経過・予後】

  無症状の場合でも狭窄は進行性である。弁口面積は平均0.1〜0.3cm2/年の割合で狭小化、 最大圧較差は10〜15mmHg/年の割合で増加との報告あり、ただし、個人差が大きい。いったん、狭心痛や心不全症状が出た後の予後は不良であると報告されている。狭心痛出現からの平均余命は5年、失神からは3年、心不全発症後からは2年とある。
【治療法】
(1)手術療法
 大動脈弁狭窄症治療の基本は弁置換術である。高齢者ではワーファリン療法が不要な生体弁がよく使われる。中等度以上は手術適応となる。高齢者でも症状があり、手術に耐えるだけの体力・身体状況であれば手術成績は悪くない。圧較差50mmHg以上の中等度大動脈弁狭窄症や症状のあるものが手術適応となる。

(2) 薬物療法
  無症状の場合は合併する高血圧の治療は行う。また、高脂血症治療薬のスタチンが大動脈弁狭窄の進行を遅らせるとの報告がある1)ので、高脂血症があれば積極的にスタチンを使うとよい。抜歯治療の際は感染性心内膜炎予防のために抗生剤投与を行う。心不全のコントロールに利尿剤やACE阻害剤などが使われる。β遮断薬は場合によっては使用するが、原則避ける。
(3)バルーン切開術
 重篤な合併症の頻度が高く(10%)、また1年以内でほとんど再狭窄が生じ、効果が一時的であるために適応は限定される。
高脂血症と大動脈弁狭窄症

 高齢者の大動脈弁狭窄症が、高コレステロール血症患者に多い傾向は日本では認められていない。しかし、高度の高コレステロール血症を示す「家族性高脂血症」では、大動脈弁逆流が高率に生じるとの報告がある。高コレステロール血症が大動脈弁障害を起こす病因の一つであると考えられる3)。
高脂血症治療薬(スタチン)の投与で、大動脈弁狭窄症の進行が半分になる。
 スタチン投与群と、非投与群の合計174人の大動脈弁狭窄症を平均21カ月の観察したところ、スタチン投与群の弁口面積の減少度は、非スタチン群の約半分であった。これは動脈硬化と同じ炎症機序により大動脈弁の石灰化が起こるせいであろうと推測している4)。
1)循環器疾患 最新治療2004-2005 p148-150
2)新・心臓病診療プラクティス 心疾患の手術適応と至適時期 p150-167 文光堂2004.3.18発行
3)心臓病診療プラクティス6 -弁膜症を考える- 別府慎太郎編文光堂1995.9.10発行 - p61大川真一郎(東京都老人医療センター循環器科)
4)Novaro GM, et al :Effect of hydroxymethylglutaryl coenzyme a reductase inhibitors on the progression of calcific aortic stenosis. Circulation. 2001 Oct 30;104(18):2205-9.