■急性ウイルス性心筋炎の簡単な解説■ 
公開日2003.09.14  更新日2004.09.01   HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す
  重症心筋炎の症例をみる
【心筋炎の原因は?】

 心筋炎とは心筋(心臓の筋肉)に炎症がおこり、心筋の破壊が生じて、心臓が弱る病気です。
原因のほとんどがウイルスによるものです。中でもコクサッキーウイルス、アデノ・ウイルス、エコー・ウイルス、インフルエンザウイルスが代表的です。これらのウイルスの多くは、よくある「風邪ウイルス」の一種です。重症のウイルス性心筋炎は、かなりまれな病気で、100,000人中およそ8人との記載もあります。 しかし、重症心筋炎では命をなくすこともあり、注意が必要です。

【どんな症状があるの?】  

 多くの場合は発熱、咳、頭痛、咽頭痛、全身倦怠感等の風邪様症状や吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの消化器症状が先行します。
 その後に「動悸」、「胸痛」、「不整脈」、「息切れ」、「夜間の呼吸困難(仰向けに寝ると悪化、座ると軽快)」、「足のむくみ」、「顔面蒼白」、「チアノーゼ」、「不整脈や失神発作」、「四肢末梢の冷感」、「全身倦怠感」などの心不全症状や「関節・筋肉痛」、「発疹」がなどがでます。必ずしもこれらの症状が全部でるわけではありません。症状の程度はほとんど無症状のものから、心不全や不整脈により急速に死に至るものまで幅が広い。

 重症の心筋炎では、突然死や重症心不全により命をなくすことも少なくありません。風邪症状に加えて、上記の症状がみられたら、早めに心臓の専門医の診察を受けることが大切です。
  急性ウイルス性心筋炎は、風邪との鑑別が難しく、心臓の専門医以外からは、風邪として見過ごされやすい疾患の一つです。体温と比例しない頻脈、胃腸症状、倦怠感を伴う呼吸困難、低血圧をみれば心筋炎を疑うことが大事です。

【どんな検査が必要?】

 心電図検査では、不整脈や波形の変化(一過性の「ST-T変化」や「QRS電位の減少」など)があるかを調べます。胸部レントゲン検査では、心臓の拡大(ほとんど軽度)の有無、肺うっ血(肺に水分が貯留した状態)をみます。
  心エコー検査では、心臓の筋肉の動きがよく観察できます。障害を受けた心臓は拡大し、動きが低下します。心筋壁運動の低下が認められます。病気の初期では左室の拡大はまだ軽度のこと多い。心臓の周囲に心のう液が貯留がすることもあります。
  一般血液検査では、白血球増多、CRPの上昇、血沈の亢進、などの炎症所見がみられます。心筋細胞の破壊を示すCPK、GOT、LDHの上昇も認められます。
  また、血液検査では、感染が疑わしいウイルスの抗体の測定を、急性期と寛解期(2週間以上の間隔)の2回行います。4倍以上の上昇があるとそのウイルスが原因である可能性が高いと言えます。しかし、ウイルスの種類は多く、健康保険の範囲ですべてのウイルス検査を行うことはできないために、起炎ウイルスを確定できることはめったになく、原因不明のことが多いのが現実です。

【治療方法は?】

 心筋炎の発症1週間程度の早期に、鎮痛解熱剤(非ステロイド系消炎剤)を使用すると心筋の破壊を悪化させる可能性があり、使用しないほうがよいと報告されています。また、総合感冒薬は鎮痛解熱剤を含んでいるのでよくありません。

 明らかな心筋炎は、生命の危険性があるので、入院も含めた慎重な観察と治療が必要です。しかし、心筋炎を起こしたウイルスに直接効く薬は現在ありません。心不全などの合併症を防止するための対症療法(安静、利尿剤、酸素吸入、食事の塩分制限など)が中心となります。

【治療経過(予後と転帰)は?】

 突然死や心不全死を含む極めて予後不良のことがあります。しかし、他方では急性期を乗り切った後には、ほとんど心筋のダメージを残さずに回復する例があります。また、心臓が拡大し、心臓の動きが低下している「拡張型心筋症」様の慢性の心筋障害を残す例もあります。日本の急性心筋炎274例を約3年観察した調査によると47.8%が完全治癒、12.4%が死亡、2.6%が再燃又は再発、37.2%が不完全治癒するとの報告があります。不完全治癒の中には拡張型心筋症に似た病態を示すものがあったという。しかし、この拡張型心筋症ようの所見を呈する症例は多くない。症状が重篤で、治療にも反応しない場合は心移植も考慮されますが、日本では事実上困難です。