甲状腺の手術適応
解説は医師向けの内容です。ほとんど私のためのまとめです。
公開日 2007.4.28 更新日 2007.4.28
更新履歴  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す
記事は参考に留め、治療方針は診療医師と相談してください。

01)バセドウ氏病の手術適応と術式
02)結節性甲状腺腫の手術適応と術式
03)甲状腺癌の手術適応と術式

参考資料:全部以下の文献の引用です。
1)日本医事新報 2007.4.21号p49-52 甲状腺手術:愛知医科大学乳腺・内分泌科 中野正吾、福富隆志

 甲状腺の病気で手術の対象となりうるのは、主に1)バセドウ氏病、2)結節性甲状腺腫、3)甲状腺癌である。日本医事新報に甲状腺手術に関する要領よくまとめられた記載があったので、これを紹介する。甲状腺の手術は、残存する甲状腺機能や反回神経などが関与する音声機能への配慮が必要となる。

1)【バセドウ氏病の手術適応と手術様式】 
【バセドウ氏病の手術適応】
1)若年者
2)抗甲状腺薬の中止が困難である
3)甲状腺腫大が著しい(整容性)
4)抗甲状腺薬に反応しない
5)抗甲状腺薬による副作用(無顆粒球症、皮疹、肝障害など)のため継続困難
6)結節性甲状腺腫を合併している
7)早期寛解を希望している
【バセドウ氏病の術前処置と手術様式】

術前処置
抗甲状腺薬の投与を行い、甲状腺機能を正常化させた後で手術を行う。無顆粒球症などの重篤名副作用により抗甲状腺薬を継続できないものは、無機ヨードとβ遮断薬の併用で甲状腺機能をコントロールする。なお、エスケープ減少を避けるため、手術までの無機ヨードの投与期間は1〜2週間とする。

手術様式
  術式は甲状腺亜全摘とし、残置量を片側1〜2g、両側で4g位を目安とするが、将来抗甲状腺薬の投与が困難で、再燃が望ましくない症例に対しては、甲状腺全適、甲状腺超亜全摘をおこなう。

2)【結節性甲状腺腫の手術適応と手術様式】 
【結節性甲状腺腫の手術適応】 
1)悪性の可能性が否定できない場合:濾胞性腫瘍で直径3cm以上の細胞診で好酸性細胞性
2)自律性機能性結節(Plummer病)
3)縦隔内甲状腺腫(周囲臓器の圧迫)
4)TSH抑制療法に反応しない場合
5)圧迫症状などの自覚症状を伴う場合
6)美容上の問題で本人が手術を希望
【結節性甲状腺腫の手術】

濾胞性腫瘍、腺腫様甲状腺腫を合わせて、「狭義の結節性甲状腺腫」として扱う。その多くは良性腫瘍である。しかし、直径が3cm以上の濾胞性腫瘍や細胞診で好酸性細胞性のものは、悪性腫瘍の可能性が否定できず、手術適応となる。.濾胞性腫瘍の場合は、たとえ小さな病変であっても核出術では不十分で、腺葉部分切除以上の手術を行う。腫瘍径が大きい場合には術前および術中の確定診断が困難であるため、腫瘍側の腺葉切除術を行う.
 なお、腺腫様甲状腺腫の切除範囲は過形成である病態を考えると全摘となる。しかし、肉眼的に正常と思われる部分は温存し、葉切除もしくは亜全摘にとどめる。

3)【甲状腺癌の手術適応と手術様式】 
【甲状腺癌の手術適応】 
1)悪性の可能性が否定できない場合:濾胞性腫瘍で直径3cm以上の細胞診で好酸性細胞性
2)自律性機能性結節(Plummer病)
3)縦隔内甲状腺腫(周囲臓器の圧迫)
4)TSH抑制療法に反応しない場合
5)圧迫症状などの自覚症状を伴う場合
6)美容上の問題で本人が手術を希望
【甲状腺癌の種類と手術様式】


甲状腺癌の治療法としては外科的切除が第一選択となる。
a)乳頭癌
 乳頭癌は甲状腺悪性腫瘍の中で最も頻度が高い。周囲の所属リンパ節に転移を起こす。愛知医科大学では片葉の乳頭癌に対しては、甲状腺機能を温存し、反回神経麻痺や副甲状腺機能低下を防ぐため腺葉切除、亜全摘と患側の保存的頸部リンパ節郭清を行っている。なお、病巣が両集に及ぶ場合や対側頸部リンパ節に転移がある場合は甲状腺全摘としている。大きさ1cm以下の無症候性の微小癌に対してはNCCNのガイドラインに準じて質的診断は行わず、経過観察としている。
b)濾胞癌
 術前および術中肉眼所見で広汎浸潤型濾胞癌と診断された場合は、甲状腺全摘と中央部の郭清を行い、リンパ節転移を認めれば保存的頸部リンパ節郭清を行う。濾胞癌の多くを占める微小浸潤型濾胞癌は、濾胞腺腫との鑑別が困難な場合も多い。術後に微小浸潤型濾胞癌と診断された場合、直ちに残存甲状腺を全摘する必要はなく、血清サイログロブリン値で経過観察する。
c)髄様癌
 血清カルシトニン値およびCEA値上昇を特徴とする.散在性と家族性のものがあり、後者は多発性内分泌腫瘍2型(MEN2型)の部分症として発症する。両側腺葉上3分の1に発生するため甲状腺全摘の適応となり、リンパ節転移が予後因子として重要であるため十分なリンパ節郭清が必要である。
 このため、備前に髄様癌が疑われた場合、ret遺伝子の変異を検索し、散在性か家族性かの鑑別が必要である。また,副腎褐色細胞腫の合併の有無を検査(画像診断ホルモン検査)し、合併している場合は副腎褐色細胞腫の手術を優先する。
d)未分化癌
 きわめて予後不良であり、化学療法,放射線療法などの実学的治療を行う。進行が速く治療効果が不確定であるため、十分なインフォームドコンセントのもとに治療方針を決定する.気道閉塞の危険性を十分に鑑み、タイミングを逃すことなく気管切開術を行う。
e)悪性リンパ腫
 偶発腫瘍を除き、根治手術は第一選択ではない。病理組織検査,免疫組織化学、遺伝子診断のための組織生検を行った後、速やかに化学療法もしくは放射線療法を行う。

甲状腺癌の標準的な術式
乳頭癌(片葉性) 甲状腺葉切もしくは亜全摘+保存的頸部リンパ節廓清
乳頭癌(両葉性) 甲状腺全摘+保存的頸部リンパ節廓清
広汎浸潤型濾胞癌 甲状腺全摘+保存的頸部リンパ節廓清
微小浸潤型濾胞癌 甲状腺葉切±中央部廓清
髄様癌(家族性) 甲状腺全摘+保存的頸部リンパ節廓清
髄様癌(散在性) 甲状腺葉切もしくは亜全摘+保存的頸部リンパ節廓清