■■ 重症急性呼吸器症候群(SARS) ■■
公開 2003.03.19 更新 2003.12.09  
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主な参考資料 
・ 日本医師会雑誌 2003.9.1 p805-810  国立感染症研究所感染症情報センター所長 岡部信彦著
・WHOの重症急性呼吸器症候群(SARS)のQ&A(仮訳) :http://www.mhlw.go.jp/topics/2003/03/tp0318-1d.html
上記の文献を中心に、他で得られた情報を一部取り入れ、また専門的な語句を平易に変換するように心掛けました。
()内は注釈として、当院が付け加えたものです。

【SARSの疫学状況】

●SARSのはじまり
 
すでに2002年11月頃から中国広東省では、SARS様肺炎の多発がありました。当初はクラミジアという病原体による肺炎であるとみなされていました。ところが2003年3月になると、ベトナムハノイ市、香港で原因不明の院内肺炎の多発が続いた。さらにカナダ、ドイツ、シンガポールなどでも香港を経由した人の中で同様の原因不明の肺炎が発症し始めた。この頃から、新たなの病原体による肺炎と考えられるようになった。2003年3月12日にWHOはこれをSevere Acute Respiratory Syndrome:SARS(重症急性呼吸器症候群)と命名し、「地球規模で警戒すべき感染症」と全世界に注意を呼びかけた。その後、SARSは北京、香港、台湾、シンガポール、トロントなどに感染が広がった。

 2003年4月には、早くもSARSの病原体が確認され、「SARSコロナウイルス」と命名された。これまで「コロナウイルスはヒトにとって軽い感冒症状をおこす程度の危険性の低いウイルス」と考えられていた。また、ヒトに感染するコロナウイルス以外にもブタ、マウス、ニワトリなどに感染する動物コロナウイルスのあることが知られていた。SARSコロナウイルスはこれらとは、遺伝子的に異なるものであることがわかった。

●感染経路
  SARSウイルスは、主に飛沫感染(くしゃみのしぶきが、数mの範囲に飛び散るために起こる。患者の2m以内での比較的長い時間の会話でも感染しやすい。ただし、換気扇や空調機による風邪の流れがあると、風の方向へ遠くまで伝搬する。)、接触感染(SARS患者の看護・介護、同居人が患者の鼻汁、唾液、体液などが付着したものを直接触り、鼻や口の粘膜から身体の中へ入る)によるヒトからヒトへの感染が中心であると考えられています。糞便からの糞口感染(便のなかにウイルスが存在する場合におこる)、空気感染(飛沫感染:小さな微粒子となり、空気中に浮遊するため、遠くまで伝搬する)の可能性も否定はできないがその頻度は低い。食物を介した感染、輸入品などの物品・郵便物などによる感染などの報告例はこれまでになく、これらへの注意、制限などは必要ない。

2003年11月追記 
  上記の報告の一部は否定されつつあります。すなわち、まだ詳しくはわかっていないようだが、medical tribuneによると、SARSウイルスはヒトから、家畜やペットにうつることがわかった。食肉などによらないで、感染した動物からヒトへの逆感染も十分にありえると考えられる。

●感染期間
 潜伏期(=無症状期間:通常感染後2日-7日、最長10日程度)は、他人への感染力はないか、極めて感染の可能性は低いと考えられている。発症初期には発熱・咳がでる。発病初期の患者でも弱いが感染力があり、十分な警戒が必要である。感染力は肺炎が重症となる時期に強くなる。また、重症者ほど感染力が強い。通常市中での感染拡大の可能性はきわめて低い。

●性差・年齢差
 若干女性のほうが多い。高齢者ほど致死率が高く、20-40歳代では感染者数は多いが致死率は低い。小児年齢では感染者数も少なく致死率も低い。

【SARSの症状】

●潜伏期間
  2日〜7日、最大10日以内と考えられている。(ただし、例外的に2週間後に発症したような症例もあると聞いている)。

●症状
 多くは2日〜7日、最大10日間の無症状期間(潜伏期間)の後に、急激な発熱、咳、全身倦怠、筋肉痛などのインフルエンザ様の初期症状が現れる。2日〜数日間で呼吸困難、から咳、低酸素血症(血液中の酸素が少なくなること)の肺炎症状がでる。肺炎になると胸部レントゲン、CT像で肺炎像を認める。

●経過・予後
 肺炎発症者の80-90%は1週間程度で回復に向かうが、10-20%は重症となる。WHOは推計として15%の致死率と発表としている。高齢者ほど致死率が高く、20-40歳代では感染者数は多いが致死率は低い。小児年齢では感染者数も少なく致死率も低い。

【SARSの検査】
 国立感染症研究所と民間会社の共同で、15-30分でSARSの診断ができる検査キットを作成している。2003-2004年冬季にその精度チェックを行う予定です。

【SARSの治療】
●治療法
 現在有効なウイルスに対する治療方法は発見されていない。国立感染症研究所や国立療養所禁忌中央病院などが共同して、SARSウイルスワクチン(DNAワクチン、不活化ワクチン)の開発研究行われている。しかし、基礎的な研究が不十分なため、ワクチンの安全性や有効性の確認のために、まだ数年は必要です。

●患者管理

 受診の前
 
SARS流行地への渡航から10日以内で、38℃以上の発熱、咳、息切れなどの症状がある人は速やかに、保健所・指定病院に電話で対応方法をたずねてほしい。できるだけ、他の人に接触することのないようにする。また、マスクなどで周囲に飛沫が飛び散らないようにする。

 職員の対応
 職員は、患者と接する前後にはよく手洗いを行う。○N95以上の性能のある感染防御マスクを使用する。○使い捨てガウン、場合によっては、○使い捨てエプロンを使用する。○手袋を使用し、はずした後も手洗いする。○汚染除去可能な履き物とを使用する。診察に使用した聴診器や医療器具は感染の可能性があるものとして取り扱う。適時、適切な濃度に薄めた漂白剤、消毒用アルコールで消毒を行う。

 患者管理
 SARS患者は、ドアが閉鎖された陰圧の病床などに入院させることと、呼吸器、粘膜からの感染を防ぐ厳密な感染防御対策が推奨さる。面会者は患者と接触する場合には、有効なフィルターの付いたマスク、医療用のゴーグル、ガウン、顔面カバーの着用が必要です。対応できる病院は限られており、保健所の指示に従って対応可能な病院に入院する。

【SARSの消毒】
 SARSウイルスは、アルコール(エタノール)や漂白剤などの消毒で死滅する。現在のところ患者が触れた物品を通じてSARSが人へ感染する可能性は小さいと考えられている。

【おわりに】
 2003年7月3日、WHOに届けられた患者数は8,439名、死亡者数は812名、回復者数7,427名です。SARSの流行は収束に向かったものの、根絶されたわけでは決してなく、今後の動向には依然十分な注意が必要です。また、SARSウイルスは風邪ウイルスと同様に、冬季に再流行するのではないかと心配されています。インフルエンザと同時に流行すると、医療パニック状態になる危険性もあり、重大な社会問題になる危険性があります。せめて、インフルエンザの流行だけでも防ごうと、厚生労働省は2003-4年用のインフルエンザワクチンの20%増産を決定した。

 中国をはじめとする各国の保健当局は、早ければ2003年11月にもSARSが再流行するのではないかと警戒を強めている。今度も中国が最前線となる可能性が強い。中国ではSARSウイルスの発生源とみられる野生動物市場の規制が、うまくいっていないからである。野生動物市場を生活の糧にしている人もあり、完全に取引を中止できないでいる。

 ワクチン開発はすでに始まっており、2005年以降には実用化できるという。しかし、将来はより凶悪な新型のSARSウイルスの出現の可能性すらあり、油断できない。


2003.09.18 追記

参考資料:Newsweek (日本語版) 2003.9.24


以下のQ&Aは・WHOの重症急性呼吸器症候群(SARS)のQ&A(仮訳)http://www.mhlw.go.jp/topics/2003/03/tp0318-1d.html からの引用です。

Q1 マスクをしていれば防げるのか
 回答:N95マスクがSARSコロナウイルスの感染防御の点で有効ですが、マスクの目が細かすぎるため、息苦しく、このマスクを長時間つけたまま日常生活を送ることはできません。普通のマスクでも数枚重ねて飛沫の吸入を防ぐという点で有効である可能性があります。

Q2 マスク以外に良い防御法はあるのか
 回答: 最も良い防御法は流行地への渡航を避けることです。やむをえず流行地へ渡航する場合には、人混みを避け、手洗い・うがいを頻繁に行うことが大切です。

Q3 洋服について感染することは無いのか
 回答:感染はウイルスが口や鼻の粘膜につくことで起こります。洋服について感染する可能性は極めて低いと考えられます。

Q4 病院などで行われている消毒には効果があるのか
 回答:適切な消毒は院内感染防止に有効と考えられます。ハノイでは、病院内でのSARS封じ込めに効果がありました。

Q5 感染地から送られてくる手紙や荷物により感染することはあるのか。
 回答:2003年の春頃までは、SARSの流行地域から積み出された物品や製品及び動物との接触から人がSARSに感染したという疫学的情報はありません。WHOも、SARSの流行地域からのどのような物品、製品また動物との接触も、公衆衛生上の危害はないと考えていました。
 そのため輸入食品を含む貨物及び動物を通じてSARSが人へ感染する危険はないと報告していた。
しかし、2003年10月のmedical tribuneによると、SARSウイルスはヒトから、家畜やペットにうつることがわかった。食肉などに寄らないで、感染した動物からヒトへの逆感染も十分にありえると考えられます。

Q6 感染地から輸入される食料品などを食べて感染する可能性はあるのか。
 回答:現在のところ、輸入食品を通じて感染する危険はないと考えられます。

Q7 食べるとSARSにかかりにくい食品はあるのか
 回答:現地ではキムチやニンニクが売れていると報道されていますが、その効果は不明です。

Q8  SARSに感染したら医療費はいくらかかるのか
 回答:SARS可能性例に該当した場合、都道府県知事はSARSのまん延を防止するという観点から、可能性例の患者に対して入院勧告を出すことができます。入院勧告を出された場合は、入院費は全額公費負担となりますので、医療費はかかりません。

Q9  子供の患者の話は聞かないが、子供と大人では感染の違いはあるのか
 回答:香港の学者グループの発表では、子供の発症者は少ないと同時に重症化することはまれで、高齢者の致死率が高いとされています。

Q10  日本人は感染しづらいのか。
 回答:感染者が広がっているのは、中国・台湾等のアジア地域が中心です。一時は世界各地でアジア地域からの帰国者に感染が疑われる人が見られましたが、世界的な対応が進む中で、その数は大幅に減少しました。人種によって抵抗力が違うかどうかについては判明しておりません。


  このホームページの記事内容の一部は転載です.
厳格にいえば,転載にはいちいち許可がいるのかもしれません.しかし,情報の公共性を考慮し,『出典を明らかにすれば,厚生労働省の意図に反するものではない』と判断し,一部をコピー・転載しました.

ホームページによるSARSの最新情報入手先
 ・国立感染症研究所感染症情報センター:http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
          緊急情報:http://idsc.nih.go.jp/others/urgent/update.html
 ・厚生労働省 :http://www.mhlw.go.jp/
          関連情報(詳細):http://www.mhlw.go.jp/topics/2003/03/tp0318-1i.html
          WHOの重症急性呼吸器症候群(SARS)のQ&A(仮訳) :http://www.mhlw.go.jp/topics/2003/03/tp0318-1d.html
 ・海外安全ホームページ(外務省):http://www.pubanzen.mofa.go.jp/

成田検閲所 http://www.forth.go.jp/
米国CDC  http://www.cdc.gov/default.htm
世界保健機関(WHO)http://www.WHO.int/en/

参考資料

日本医師会雑誌 2003.9.1 p805-810  国立感染症研究所感染症情報センター所長 岡部信彦著
日本医事新報2003.3.22 p86 
日本医師会ホームページの感染症危機管理対策室
   http://www.med.or.jp/kansen/
SARSに関する日本医師会感染症危機管理対策室からの情報提供
   http://www.med.or.jp/kansen/sars/index.html