■■ テニス肘の対策 ■■
公開 2006.05.14 更新 2008.4.10  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す
印刷は文字拡大75%を勧めます。以下に記された内容は効果を保証するものではありません。
自分の判断と責任のもとで、または必要に応じてスポーツ専門医の指示を受けるようにしてください。
当院はいかなる結果に関しても責任負えません。あくまで記事は参考としてください。


1)テニス肘とは?   What is Tennis Elbow?
 テニスプレイヤーの約10%に、利き腕の肘痛がおこる。いわゆるテニス肘である。 前腕から肘まで伸びる手首を反らせる筋肉と骨をつなぐ腱の細かい断裂を伴った炎症が原因である。多くは不適切なバックハンド・フォームによるが、手首を過度に使うフォームならフォアハンドでもサービスでも腱の障害が生じる。重症になると物を持ったり、タオルを絞ったりといった日常生活にも支障をきたすようになる。今回私自身の経験を踏まえて、テニス肘対策を検討してみた。結論から言えば「テニス肘は工夫によりほとんど予防ができる」はずである。
2)どんな人がなりやすい?   Who gets"Tennis Elbow"
 年齢が第一の要素で、 20歳以下は滅多にない。35歳〜50歳が最も多い。テニスの腕前は平均か多少上、週2〜3回ぐらいテニスをする人が多い。初心者や週1回以下の人ではむしろ少ない。 テニス以外でもゴルフ(ゴルフ肘)、野球(野球肘)、バドミントン、ボーリングなど、道具を使って手をふる運動では同じような障害が起こる。また運動以外でも、歯科医、大工、家事、農作業など肘の関節の曲げ伸ばしを繰り返す職業の人にもみられる。男女比は1:3で、中年女性に多い。  
3)テニス肘の原因・症状?   Mechanisms and Symptoms
 無理なフォーム、多すぎる練習量や合わないラケットによる●筋肉・腱の過負荷(使いすぎ)と●加齢にともなう筋肉・腱の衰えの2つが最大の要因である。「テニス肘の原因の99%はまちがったフォームである」と考えてよい。力の入れすぎもよくない。
 テニス肘はおもに3種類にわけられるが、全体の8〜9割はバックハンド型である。運動部に所属している中高生や、ハードヒットやサーブの際の手首のスナップが原因になる場合にはフォアハンド型がおこりやすい。また、ゴルフ肘は右利きの場合、左肘の外側上顆炎と右肘の内側上顆炎が多くみられる。
 最初の自覚症状は、ボールを打ったときの肘痛である。手首をそらす動作でとくに痛みが増強する。そのうち、何を持っても痛くなる。
(1)バックハンド型テニス肘
・症状:肘の外側(手を伸ばして手のひらを上にしたときの親指側)が痛む。圧迫痛と運動痛がある。指をそらせると痛むときは相当悪い。
・機序:
ボールを打つ瞬間に手首を内側(手のひら側)に返して、その反動でバックハンドを打つと、肘の外側の前腕伸筋群が強い伸びと収縮を受けて腱にストレスがかかる。その繰り返しで腱に微細な断裂が起きる。医学的には上腕骨外側上顆部の炎症、筋肉と腱部分の疲労性障害。日常生活では、物を持ち上げる動作、物をつかむ動作、手を振る動作、皿洗い、ドアを開けるときに疼痛が増強する。テニス中ではバックハンドストロークでボールを打った瞬間に疼痛が生じる。熟練者よりも初心者のほうがなりやすい。ボールを打つときに手関節が屈曲している、手関節の伸展筋群の筋力と柔軟性が劣ることがその理由とされている。
(2)フォアハンド型テニス肘
・症状:肘の内側(手を伸ばして手のひらを上にしたときの小指側が痛む。指を曲げると痛むときは相当悪い。サーブまたはフォアハンドのトップスピンを打ったときの痛みや握力低下が生じる。ゴルフやボーリングで手関節をひねる動作で痛みが出現する。
・機序:
手首を後ろに反らして、その反動でラケットヘッドを前に動かすようにボールを打っていると、前腕屈筋群の付け根の腱がダメージを受ける。手首をぐらぐらさせるフォームが原因。医学的には上腕骨内側上顆部の炎症。ゴルフ肘も同じ機序で生じる。上級者でしばしば見られる。サーブまたはフォアハンドのトップスピンを打ったときの手関節のスナップ時に生じる。
(3)サーブ型テニス肘
・症状:ひじの後ろ側(肘頭)が痛む。
・機序:
・テニスのサーブは、野球の投球動作と似ており、サーブ肘は野球肘と似ている。
尺骨の先端は、ひじを伸ばしたときに上腕骨とぶつかることで肘が必要以上に曲がらないようにブロックしている。
サーブのインパクトまたはフォロースルーの段階で肘が伸びきると、ふたつの骨が急激に衝突して炎症を起こす。
インパクトのときに腕が一直線になるフォームは必ず肘を痛める。また、スピンサーブ、ツイストサーブは肘の内側に大きなストレスをかける。
4)テニス肘の治療・予防対策  Self Medications and Preventions

ほとんどの場合、テニス肘は完治するが、半年か、それ以上かかることがある。筋腱付着部の血流は乏しいために、障害の治癒には数週間〜数ヶ月を要する。
●●【A】急性期の処置:テニスをやっていて肘痛が急に起こったときの応急処置●●
・冷却:
 痛みに気付いたら、運動後すぐに患部のアイシングを15分間おこなう。
 痛みや熱があるうちは冷やし続けるのが基本。1回15分を1日2回の目安でおこなう。1週間ほど続ける。
・安静:
 
痛みの強いときは、安静にして痛みをともなう動きを避ける
 
完全な休養を与えると、筋肉の硬直や衰弱、萎縮を招くので、できるだけ早く腕を使う訓練も必要だ。つまり、腕はできるだけ頻繁に使うようにするが、痛みを感じる動きは避ける。包帯で緩く巻くことも有効である。ストレッチも大事である。
・リハビリテーション
 テニスプレーの頻度と時間および強度は、非常にゆっくり増やしてゆくべきである。

●●【B】慢性期の処置・リハビリテーション・予防●●
【1】フォームの改善
 Stroking Techniques
 フォームを改良しないかぎり必ず再発するので、肘に負担のすくないフォームにする。
 (1)バックハンド型テニス肘
  手首とラケットの角度を固定し、インパクトまで振る。インパクトの瞬間は手関節は真っ直ぐになるようにする。インパクト後は手首は脱力してリラックスさせる。両手打ちバックハンドに変更するのもよい。
 (2)フォアハンド型テニス肘
 肘を過伸展させた状態でインパクトしない。肘を曲げた状態でインパクトする。フォアハンド、サーブ、オーバーヘッド時の手関節の動きを制限する。極端なウエスタングリップをやめて、セミウエスタングリップとする。
 (3)サーブ型テニス肘
  インパクト時にある程度の肘の曲げ、腕が一直線にならないにようにする。上半身の力を抜いてサーブする。
【2】腕の筋肉強化トレーニング
(参考資料1、2より)
前腕よりも肩や体幹の筋力強化が重要である。
●総合的強化
多くのドーナメントプロが行っているトレーニング法の一つに、コートに入る前に、ラケットカバーをつけたまま、ボールを打つようにバックハンドの素振りを行なう方法がある。空気抵抗による負荷により、必要な筋肉を強化することが可能となる。プロは少々暑く感じるようになるまで行なうという。次の段階では、ボールを1〜3個カバーの中に入れて同様に素振りをする。けれども、決して自分の限界を越えて行なってはならない。(メンタルテニス -考えを変えればもっと強くなる-より)

●部分的強化
 (1)上腕腕や肩の筋肉を鍛える
 (2)上腕二頭筋(ちからこぶ)を鍛える。

鉄アレイなどを持って、腕を下にだらりと伸ばした状態から30°程度まで曲げる運動
1) ・強度は15-20回できる程度。
2) ・筋肥大を目的にするので、ひじを60度まげた状態からスタート。
3) ・速度は1〜2秒に一回。あまり遅いのは筋力アップにならないのでだめ。
4) ・頻度は、早期に肥大を求めるのなら、5セットで、週6回。通常は2〜3セットを週2〜3回。
▽筋肉の運動速度について
筋肉を肥大させたいときは、ゆっくり行う。パワーをつけるときは速く行う。
はじめての時は、まず15-20回できる強さで、ゆっくり行って筋肉を大きくする。
何週間かで筋肉が大きくなったら、1秒に一回のスピードにする。
さらに何週間かして、強度を10回にして、最大限のスピードで行う。
 (3)手首を鍛える。
   手首巻き上げ運動(リストカール)。手首をそらせる運動も行う。1〜2キロ程度の鉄アレイをゆっくり持ち上げる動作を1日10回おこなう。筋力トレーニングは、痛みがある時期におこなうとかえって症状が悪化するので、必ず痛みがとれてからおこなう。腕を下にだらりと伸ばした状態のまま手首を回転させる運動もおこなう。
【3】上記以外の肘の保護法

 (1)練習量を減らす。
 テニス肘は慢性化すると治るまでの時間がかかるので、軽い場合でも、急性期には痛みが起こる運動は控える。なお、ひじを圧迫すると痛いが、その他の痛みはない場合やバックハンドストロークをするときだけ痛いなどの軽症の場合にはバックだけしないなどの部分的に休む方法もある。さらに痛みが強くなり、軽いものを持つと痛む中等症の場合は、約2週間ぐらいテニスは休むとよい。
 (2)ストレッチとマッサージ
 ストレッチは柔軟性を高める。テニス中に肘に違和感を感じたら疲労回復のためのストレッチとマッサージを行う。また、運動前や後、入浴時にストレッチとマッサージを行う。
右腕の場合、右腕を前伸ばして、手のひらを下に向け、指先を左手で持ち、手前に引っ張るように手首を曲げます。静止30秒×3回。
 次に、右手のひらを上に向け、左手で指先を持ち、手前に引っ張るように手首を曲げます。静止30秒×3回。
 (3)練習の直前のウォーミング練習後のアイシング。
 運動前は15分間の温熱パックを行う。また、ゆっくりと軽い運動から始める。運動後は15分のアイシングを行う。氷をビニール袋にいれて、熱をもった肘を冷やす。冷やしすぎると逆効果、熱がなくなったらすぐに冷やすのをやめる。また、肘が熱いときは、炎症が強いので、入浴など肘を暖める行為は禁止。まず冷やして、常温になってから入浴する。
 (4)テニス肘用サポーター
  
前腕サポーター(肘の直ぐ下に付ける)も役立つ。手首の上にもう一つ付けるとさらによい。これらはぴったりとあってこそ効果があるが、きつく巻きすぎると血行を悪くするので強く巻きすぎないこと。テニス以外での着用も有効。
 (5)ラケットやガットは衝撃の少ないものを使う。濡れたボールは使わない。
・ラケットは薄い物、硬いもの、重いもの(ヘッドが重い物は負担が大きい)、軽すぎるもの、グリップが細いもの(ラケットのねじれが大きくなる)、スイートスポットが小さいものは衝撃が強いのでよくない。また、ガットの張力(テンション)が高いと衝撃が強い。
・ 振動止めも有効。製品には色々あり、効果に差がある。しっかりとしたものがよい。小さいと効果が弱い。また、ラケットガット面の中央に近い方が効果が高い。
・濡れたボールは重たくなり、衝撃が強くなるので、使わない。
5)テニス肘の医療機関での治療 Medications in a Clinic
 手術しない保存療法が原則である。まずスポーツ活動を一時中止し、出来るだけ肘や手首を使わないように指導する。消炎鎮痛剤の外用薬(塗り薬など)または内服薬を使う。それでも痛みが強い場合には、ステロイドの局所注射をおこなうこともある。ステロイドは、腱組織を一時的に弱めるので、2週間ほどは絶対に運動をさせてはいけない。順調にいくと、1〜2週間ほどでテニスができるようになる。 症状が改善するとテニスエルボーサポーターを着用させてプレーを再開させる。なお、慢性化すると治るまでに数カ月から1年ほどかかることが多く、急性期にきちんと治療をしておくことが大切。
2006.5.14記 2007.7.10修正
主な参考資料 
1)テニスパフォーマンスのための医学的実践ガイド:
  監訳 別府諸兄 日本テニス協会推薦。原著FROM BREAKPOINT TO ADVANTAGE Babette Pluim,M.D.,Ph.D. Marc Safran,M.D
2) Macken Tennis Street:
 http://www.rose-unet.ocn.ne.jp/macken/tennis/index_tennis.html
3)Dr赤ひげ.com
●スポーツ医学情報ファイル 〜痛んだときのケア 肘編〜 (上)
 http://www.drakahige.com/FAMILY/SPECIAL/SPORTSMEDICAL/2001/2001061801.shtml
●スポーツ医学情報ファイル 〜痛んだときのケア 肘編〜 (下) 慢性のテニス肘と予防
 http://www.drakahige.com/FAMILY/SPECIAL/SPORTSMEDICAL/2001/2001062501.shtml
4)テニス・フィットネス(Tennis Medic):
  スティーブン・R・レバーソン/ハーベイ・E・サイモン共著、吉見正美訳/窪田登監修
5)●メンタルテニス - 考えを変えればもっと強くなる - 
 Vic Braden,Robert Woot(2003/12翻訳版初版)
6)上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン 【日本整形外科学会編(2006年)】
 オンライン版:http://minds.jcqhc.or.jp/0044_ContentsTop.html
 市販版は2000炎(税抜き)2006.5.25発行