【スギ花粉症の解説】
 
公開日 03.02.21 更新 03.03.04 

手術など経験のない治療法に関しては文献に基づく解説です。
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A)花粉症とは
B)花粉症の原因は
 1:スギ花粉に対するアレルギーが代表です
 2:複数種への花粉感作も増加しています

C)花粉症の症状は
D)花粉症の対策は
 1 :花粉との接触を断つことが基本です
 2 :一般療法
 3 :薬物療法総論
   ○薬の臨床効果発現時期
   ○第一世代と第二世代の抗ヒスタミン薬の特徴
   ○主な治療薬の副作用


  :薬物療法各論
   ○抗ヒスタミン薬、他の抗アレルギー剤
   ○局所ステロイド療法(点鼻薬、点眼薬)
   ○血管収縮剤(鼻スプレー)
   ○ステロイド含有抗ヒスタミン剤(セレスタミン)の 内服

   ●花粉飛来最盛期の対策
   ●妊婦の花粉症治療
   ●鼻汁・くしゃみ・鼻閉など症状別の治療法の選択
   ●眠気のおこりにくい薬剤の選択
   ●花粉症への長期作用型ステロイド薬投与と問題点
   ●「1回の注射でスギ花粉症のシーズンが楽に送れる」 治療の大きな問題点
   ●抗原特異的IgE検査
 4 :抗原特異的免疫療法(減感作療法)
   ●新しい減感作療法(ペプチド免疫療法)
 5 :手術療法
 6 :その他の治療法
   ●ヨーグルトが花粉症に効くという噂は本当?
   ● 寄生虫感染の「アレルギー疾患抑制説」について

参考資料
・「鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-」改訂4版2002年 
       鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会 ライフサイエンス
・日経メディカル2003年1月号   スギ花粉症 p20-21
・日本医事新報 200年2月23日号 花粉症治療でステロイド薬をどのように使う か 、大阪大学医学部保健学科教授
・日経ビジネス 2002年2月11日号 スギ花粉症、 三邊 武幸 都立荏原病院 (東京・大田区)耳鼻咽喉科部長 
・日本医事新報 2001年1月06日号 スギ花粉症に対する治療選択、藤枝重治  福井医大耳鼻咽喉科講師
・日本医事新報 2001年3月31日号 スギ花粉症、岸河 禮 国立療養所南福岡 病院 アレルギー科医長 
・日本医師会報 2000年5月27日号 花粉症に対するデボステロイド薬投与の是 非  奥田 稔、日本臨床アレルギー研究所 
・日経CME  2003年2月(Medical tribune 2003.2.13号付録) 第52回日本アレ ルギー学会報告より(2002.11月)
・日医雑誌vol128、2002年8月15日号 発作時の薬物療法と予防的投与 朝倉光 司(市立室蘭総合病院耳鼻咽喉科)
・日経ヘルス2003年1月号より   Clin.Exp.Allergy;32、563-570、2002 
・あるある大辞典(フジTV)     http://www.ktv.co.jp/ARUARU/
・ 日経ビジネス 2003年2月24日号 p120-122  スギ花粉治療米

A)花粉症とは                              目次へ

 スギ花粉などある特定の花粉が目に入ったり、鼻から吸い込まれたりすることにより起こるアレルギー症状を花粉症といいます。原因となる花粉は50種類余りありますが、我が国ではとくにスギ・ヒノキ花粉症が著しく増加しています。一方、米国ではブタクサ、英国ではイネ科の花粉症が多い。
  スギ花粉は平均気温が10度を超えると飛散を始めます。2月中旬前後から4月末頃まで、鼻炎や眼症状が続いたらスギ花粉症 を疑います。
  花粉症は30〜50歳代に多い。花粉に対する過敏症体質は年々徐々に増強され、ついに発症します。一度発症すると自然に治ることは滅多にありません。 花粉症は鼻のアレルギー症状のほかに、眼のかゆみなど結膜アレルギー症状が同時におこることが特徴です。また、「喉がいがいがする」、「咳が出る」などの咽頭アレルギー症状もでます。

 
季節性鼻アレルギー(ほとんどは花粉症)の人口は30歳代〜50歳代が多い  
 
通年性鼻アレルギー(多くは 室内塵、ダニアレルギー)の人口のピークは10歳代。  
鼻アレルギー診療ガイドラインおよび人口推計月報より
大久保 公裕氏(日本医科大学耳鼻咽喉科助教授)作成を表示変更
 

B)花粉症の原因は                            目次へ

 スギの植林が戦後増加し、スギ花粉飛来が増加したことが一番大きな原因とされています。しかし、農村部よりも都市部に多く、単純にスギ花粉の飛来量だけが原因とはいえません。

●車の排気ガスなどによる大気汚染で、鼻粘膜が荒れて花粉のアレルギーを起こしやすさが増強される。
●舗装されたケ路により地面に落下した花粉が再び舞い上がりやすい。
●生活環境の変化
  などいろいろな要因が関わっているものと考えられています。しかし、まだ不明 なところも多いのが現状です。遺伝性に関しては、家族調査から「アレルギーにならない体質が優性遺伝」すると言われています。

1)スギ花粉に対するアレルギーが代表です                目次へ
 花粉症の原因となる植物はさまざまですが、その代表的なものは スギです。スギ花粉症は戦前はほとんどみられませんでした。 スギ花粉症は日本独特のものです。近年とくに増え、低年齢化も起 こっています。現在では国民10人に1人がスギ花粉症といわれています。

■小学生におけるスギ花粉抗体陽性児童の割合■
千葉県内の小学校生175人の小学1・2年生の 「スギ花粉特異IgE抗体保有率※」を毎年1回、5・6年生になるまで5年間追跡調査結果。

スギ花粉アレルギー検査で陽性の小学生は学年があがるごとに増加した。

そして、小学生6年生の時点にすでに6割にまでなった。

これらの児童はたとえ症状がなくても「スギ花粉 症予備軍」といえます。
島 正之他:小学生のスギ花粉症に関する5年間の縦断的研究、第13回日本 疫学会より

※スギ花粉特異IgE抗体陽性=スギ花粉にアレルギ ーがあることを示す。まだ、花粉症の症状がでていない人も含む。


2)複数種への花粉感作も増加しています                  目次へ
 複数種への花粉に対するアレルギーも増加しています。花粉症患者のうち、複数のアレルゲンに反応する患者は約7割を占めるといいます。あなたがどの花粉に対してアレルギー抗体をもっているかは、簡 単な「血液検査」または「皮内反応」でわかります。

●春の鼻炎がすべてスギ花粉症とは限りません。

毎年春にくしゃみ・鼻水や目のかゆみの症状で、「スギ花粉症」と自己判 断された患者さんにアレルギー検査(特異的IgE抗体)を行ったところ約20%はスギ ではなく、他の花粉、ダニ、ホコリ、ペットが原因でした。

リンテック資料より

●ヒノキ花粉症を合併する人も多い
5月の連休を過ぎても症状が続く人は、スギ花粉症とともにヒノキ花粉症がある可能性が高いと考えられます。

スギ花粉症と診断された人のアレルギー検査を行ったところ、61%がヒノ キ花粉に対しても陽性反応を示しました。つまり、スギ花粉症の約60%が同時にヒノ キ花粉アレルギー体質であると言うことです。
  複数の花粉に陽性の人は、飛来する時期が花粉によって違うため、症状 が長期化しやすくなります。
リンテック資料より

●夏、秋花粉症、通年性の花粉症もあります

 
スギ・ヒノキ・イネ科植物の花粉の飛来時期  

スギ以外の原因となる花粉にはカモガヤなどのイネ科の雑草、ブタ クサ、ヨモギといったキク科の雑草などがあり、いまでは57種類の花粉アレルギーが 明らかになっています。この中で春に花粉を飛ばすのはスギだけで、イネは夏、ブタクサは秋がシーズンです。飛散する花粉の量や生育地域の広さ、患者数などから花粉症の代表格といってよいものが、スギ、イネ、ブタクサの三 つです。夏や秋に花粉症の原因となるのは、丈が低 く、山のふもとや河川敷などの平地に群生する野草です。これらは、樹木による花粉症と比べ、

・花粉の量自体が少ない、
・飛散期間が短く、
・原因植物が自生する周辺に行かなければ 一般に症状はでない
 
という局地的な色合いが強い。そのため春の花粉症よりは、花粉飛 来の地域を回避することにより予防することが容易です。

C)花粉症の症状は                            目次へ

●鼻の症状(アレルギー性鼻炎の症状)
 くしゃみ、鼻水、鼻づまりが花 粉症による鼻の3大症状です。そして、これらは目の症状と同時に起こるケースが少なくありません。

目の症状(アレルギー性結膜炎の症状)
  最も多くみられる症状は目のかゆみ。この他にも充血涙が出る目がゴロゴロするといった症状があらわれます。

●のどの症状(アレルギー性咽頭炎の症状)
  喉がいがいがする。咳がでる。
以外と知られていませんが、花粉は咽頭アレルギーもおこします。

D)花粉症の対策は                            目次へ

 今のところ根本的に花粉アレルギーを根治する治療法はありません。花粉症の 治療は大きく分けて5つあります。

(1)抗原の回避・除去、一般療法
(2)薬物療法
(3)抗原特異的免疫療法(減感作療法)
(4)手術療法
(5)その他

(1a)花粉との接触を断つことが基本です             目次へ


●晴れて風のある日は外出を控える。
 花粉は晴れた風のある日(特に雨上がりの翌日)によく飛びま す。このような日の外出はできるだけ控えましょう。

●外出しなければならないときは、マスクやメガネを着用しましょう。
 サングラスはゴーグル型がベストです。

●室内への花粉の侵入を防ぐ。

 掃除の時以外は、室内への花粉の侵入を防ぐためにキッチリ窓を 閉めておく必要があります。
   フトンや洗濯物を取り込む際には、花粉を十分に払い落として下さい。
 また外出からの帰宅後は、髪や衣服についた花粉を落とすように 心掛けて下さい。
  花粉がつきやすい毛羽立った上着は避けましょう。
 化繊は静電気で花粉を引き受けやすいと言われたこともありますが、その効果は弱く問題ありません。
  むしろ化繊は表面が毛羽立っていないことが花粉症にとって有利です。
 晴天で風の強い日はスギ花粉の飛散量が増えますので、ふとんを干すのは避けたほうがよいでしょう。

●雑草が原因なら除去を。
 カモガヤやブタクサなどの花粉症の原因となる雑草が身近に生えていたら、できる限り取り除いて下さい。

●部屋の中はいつも清潔にする。

 部屋の中は常に整理整頓し、ふだんよりこまめに掃除して下さ い。
 特にじゅうたんやベッドの下は念入りに行いましょう。
 電気掃除機を使う時は、窓を開けて噴射口を室外に向け室内にホ コリが舞わないようにします。
 電気掃除機だけでは、花粉の除去は十分ではありません。あとで濡れ雑巾、乾拭きも行いましょう。

●眼症状に対して洗眼も有効です。

 市販の「アイボン」などによる眼洗浄も有効です。
 なるべく、コンタクトレンズを止めて刺激を避け、花粉の侵入を防ぐためにめがねを使うとよいでしょう。


(1b)一般療法                             目次へ

●ストレスを避け、十分な睡眠をとる。

 過労や精神的なストレスはアレルギー症状のあらわれるきっかけになったり、症状をさらに悪化させます。
 不規則な生活を避け、十分な睡眠をとるように努めて下さい。ま た、お酒やタバコもできるだけ控え目にして下さい。

●風邪をひかないようにする。

 風邪をひくと鼻の粘膜が荒れて、粘液中の外分泌型抗体(IgA)という抗原を包み込み、体内への抗原(花粉)の進入を阻止する物質の分泌が減ります。
  このため風邪になると花粉症の症状が悪化しやすいので、風邪を引かないようにする注意が必要です。ちなみにIgAを増加させるには、「モズク」、「ワカメ」などの海草類や「アロエ」が有効である可能性が高いと放送(あるある大辞典 2003.3.2放送)では言ってました。真偽のほどは分かりません。

(3)薬物療法                              目次へ

 花粉症の治療薬には抗アレルギー薬、ステロイド薬、漢方、そ の他などがあります。薬物治療のポイントは、花粉が飛ぶ前から 抗アレルギー薬を予防的に使うとよいということです。抗アレルギー薬(第2世代抗ヒスタミン薬、ケミカルメディエーター遊離抑制薬、ロイコトリエン拮抗薬、トロンボキサンA2阻害薬)を早めに投与すると、最盛期の症状が緩和されます。

 花粉の飛来が始まってから本格飛来までは約1ヶ月あります。スギ花粉が飛散しはじめる2月初旬頃の1〜2週間ほど前から薬を使 い始めてください。そして、スギ花粉の飛散が終わる4月下旬ごろまで、1〜2ヵ月ほど使い続けてください。ヒノキ花粉症もある人はさらに1ヶ月続けてください。
 軽い症状がでた初期またはそれより前に予防的治療を開始する理由は、「薬品の多くが十分な効果がでるまでに、1〜2週間かかるため」、また「花粉の刺激を受け続けると鼻粘 膜がどんどん過敏になるため」と言われています。

 初期から治療を行うと本格飛来の症状を軽減できます。弱い薬でも 症状の抑制効果が高く、効き目も持続します。症状がひどくなってから服薬を始めると、副作用のある強い薬でないと症状が治まらないことがあります。お勧めの鼻炎症状治療薬として、「抗ヒス タミン剤」と「ステロイド点鼻」の併用が多くの人に適すると言われていま す。

●アレルギー性結膜炎
  コンタクトレンズ装着者の点眼ではほとんどの薬でレンズを外し、 5〜10分後にコンタクトレンズを装着する必要があります。そのため朝起床時、就寝時の2回使用が便利です。ステロイド薬の点眼を連用する場合には、緑内障、角膜潰瘍などの 副作用に注意がいります。緑内障の予防の観点から、使用前の眼圧の測定が望ましい。経口抗アレルギー薬よりも点眼の方が有用です。減感作療法などの効果の臨床報告はほとんどされていません。

花粉症治療薬グループ間の比較                     

第二世代の抗ヒスタミン薬を第一世代と比較すると、、、
  眠気、口渇、排尿障害、緑内障悪化などの副作用が少ない
  全般改善度がややよい
  鼻閉に対する効果がややよい
  効果がマイルドなため、発現が遅く、持続が長い。十分な効果を得るのに2週かかる
  連用により改善率が上昇する
鼻アレルギー診療ガイドラインより

主な治療薬の副作用                 目次へ
薬物 副作用
第一世代抗ヒスタミン薬 眠気、全身倦怠、喉の渇き、排尿障害(喘息、前立線肥大、緑内障にはよくない)
第二世代抗ヒスタミン薬 弱いが眠気、肝臓・胃腸障害
経口遊離抑制薬 肝臓・胃腸障害、発疹、一部に膀胱炎
抗ロイコトリエン薬 白血球減少、血小板減少、肝障害、発疹、下痢、 腹痛
抗トロンボキサンA2薬 出血傾向、肝障害、発疹、腹痛、頭痛
全身ステロイド薬 別記※ 悪化する病気 (感染症、消化性潰瘍、高血圧、糖尿病、緑内障)
鼻用ステロイド薬 鼻刺激感、乾燥、鼻出血
鼻用遊離抑制薬、抗ヒスタミン薬 鼻刺激感、薬により眠気
鼻用血管収縮薬 習慣性、反跳現象、反応性低下など
鼻用抗コリン薬 鼻刺激感


個々の薬剤の解説                             目次へ

●抗ヒスタミン薬、他の抗アレルギー 剤

 抗アレルギー薬のうち、抗ヒスタミン薬は特に「くしゃみ」と「鼻水」の抑制に即効性があります。しかし、「鼻づまり」には効果が弱いのが欠点です。抗ヒスタミン剤は眠気が最大の副作用 です。最近は眠気が少ない第2世代の抗ヒスタミン剤 がよく使われています。しかし、重症患者には古いタイプの抗ヒスタミン剤のほうがよい効果を示します。この場合眠気は生じますが、逆に夕食後に服用することで花粉症に よる不眠の解消にも役立ちます。しかしながら、スギ花粉が大量に飛散し、かなりの症状が発現していると、抗ヒスタミン剤だけでは多くの場合不十分です。最近でている抗ロイコトリエン薬、抗トロンボキサン薬は鼻閉症状 の改善に有効と言われていますが、即効性はありません。

●局所ステロイド療法(点鼻薬、点眼 薬)

ステロイド点鼻薬

 ステロイド点鼻薬は内服薬に比べて、使用量が少ないため重篤な 副作用がありません。くしゃみ、鼻漏、鼻閉のいずれの症状にも効果があるのでどの 人にもお勧めです。ただし、くしゃみ、鼻漏には3-4日で効果があらわれますが、鼻閉 に対して効果がでるまでには約1週間を要します。使用開始直後は効果があらわれなくても続けるようにしてください。 女性は外出先での点鼻薬の使用をためらいます。この場合は、1日 4回の噴霧を朝夕2回の倍量噴霧に変えても結構です。

花粉症治療でよく使われるステロイド点鼻薬
薬品名 商品名 副作用
プロピオン酸ベクロメタゾン アルデシン、ベコタイド 鼻刺激感、冬季空気乾燥時には乾燥性鼻炎、鼻出 血を起こすことがあります。
ブルニソリド シナクリン
プロピオン酸フルチカゾン フルナーゼ

ベコタイドを例にすると、両鼻腔に1日4回噴霧しても1日量 は400μgと少量です。また、いずれも吸収されにくく、微量吸収されても代謝が速い ため全身的副作用はごく少ないという特徴があります。
これらは1日1〜2回、1年間の連用しても安全です。
連用を心配される 患者さんにはこの点を説明します。

ステロイド点眼薬

 眼症状に対してもステロイド点眼薬がよく効きますが、ステロイド点眼薬の使用は眼圧の高い人はよくありません。一度眼科で眼圧を確認しておいた方がよいでしょう。また、濃いステロイド点眼薬と濃度の低い点眼薬があります(例フルメトロン0.02%、0.1%)。濃い方が副作用も起こりやすい。

●血管収縮剤(鼻スプレー)

 ひどい鼻閉に関しては血管収縮剤が鋭い切れ味を示します。ただし、有効時間が徐々に短くなり、鼻閉に関しても反跳現象(リバウンド)が起こります。ステロイド点鼻薬と併用し、短期間の使用 にとどめておくことが肝要です。長期連用により血管収縮薬による2次的な肥厚性鼻炎などがおこり、薬をやめても元に戻らず、ひどい場合は手術が必要になることがあります。高度の鼻閉に対して ステロイドの前に「プリビナ」(商品名)などの血管収縮作用のあるものを前もって使用することがあります。その場合でも、短期間(1日3回以内、一週間以内)にとどめるようにします。市販薬にも血管収縮剤の入った鼻スプレーがあります。上記の理由から、市販薬だから安全とは限りません。

●ステロイド含有抗ヒスタミン剤(セ レスタミン)の内服

 セレスタミンは抗ヒスタミン薬とステロイド薬の合剤です。鋭い 切れ味を示します。ステロイドホルモンが含まれているため、長期の内服は副作用や副 腎抑制から勧められません。セレスタミンの内服は副作用の点から7日から10日までに限ったほうがよい。漫然と処方することは絶対に慎むべきです。長期に使用すると、太るだけでなく、糖尿病、浮腫、骨粗鬆症、高 血圧、白内障、副腎機能障害など多くの病気を確実に引き起こします。

●花粉飛来最盛期の対策                          目次へ

 気温が15℃以上にあがるまたは湿度が60%以下になるなどの気象条件が整うと飛散のピークが訪れます。飛散のピークに1日くらい遅れて症状のピークが現れます。春先では三寒四温を繰り返すので、週に2回、3-4日毎に飛散のピー クが起こります。このピークとピークとの間は花粉の量が減っても、重症症状が持続するのが本格飛散期の特徴です。
  この時期には経口ステロイドや抗ヒスタミン薬、あるいは血管収縮 点鼻薬などを一時的に使います。最盛期には局所ステロイドを加え、さらにコントロール不十分なら セレスタミンを1-2週間を限度に使用します。

●妊婦の花粉症治療                            目次へ

 妊娠中は鼻粘膜のうっ血のために鼻炎症状は悪化します。また、妊娠、出産後に発症することもあります。
  妊娠中や授乳中の女性への薬物の投与は、胎児や乳児に与える影響を考えなければなりません。特に妊娠初期から胎児の器官形成期にあたる4ヶ月半ばまでは、原則として薬物は使わない方が無難です。妊娠4ヶ月以降では、必要なら点鼻用の局所用剤(鼻用DSCG、鼻用遊離抑制薬、鼻用抗ヒスタミン薬、鼻用ステロイド薬)を少量用います。点鼻用血管収縮薬の局所使用も最少量とします。 
●鼻汁・くしゃみ・鼻閉など症状別の治療 法の選択              目次へ
 くしゃみや鼻汁が強い場合は抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)が有効です。しかし、本格飛散期はこれだけで症状を抑えるのは難しいので、セレスタミンを1-2週間を限度に使用します。鼻汁が強い場合は抗コリン薬のスプレーを併用することがあります。それでもなお鼻閉が強い場合の治療は難しいのが現状です。

 薬剤では抗ヒスタミン剤やロイコトリエン拮抗薬やトロンボキサンA2拮抗薬、あるいは血管収縮性点鼻薬を使います。鼻閉の強い方の中には鼻中隔湾曲症や不可逆的な粘膜病変があったりする人がいます。この人達には積極的にレーザー治療や外科的手術をすすめます。ただし、花粉症治療にレーザー治療は有効ですが、再発するので、第一選択にはなってません。

 鼻アレルギー診療ガイドラインより

発作時の薬物療法と予防的投与 朝倉光司(市立室蘭総合病院 耳鼻咽喉科)日医雑誌vol128、2002年8月15日号
 
効果発現時期
発作時治療
短期予防
長期予防
第一世代抗ヒスタミン薬
10〜20分
×
局所抗コリン薬
10〜20分
△(鼻汁のみ)
△(鼻汁のみ)
×
局所ステロイド薬
1〜2日
△(数日前)
酸性抗アレルギー薬
2週
×
×

塩基性抗アレルギー薬
(第2世代抗ヒスタミン薬)

1〜2日
十分な効果には2週

抗ロイコトリエン薬
2週
他の薬の臨床効果発現時期  鼻アレルギー診療ガイドライン より 
2〜3日 全身ステロイド  
約1週間 点鼻抗アレルギー薬  

●眠気のおこりにくい薬剤の選択                      目次へ
抗ヒスタミン薬の鎮静作用(shamsi Z etal.Psychophamacol.Clin.Exp.15:S3-S30(2000)
薬品名 商品名 比例障害比率  
Fexofenadine アレグラ 0.00






Ebastine エバステル 0.14
Cetirizine ジルテック 0.25
Loratadine クラリチン 0.48
Mequitazine ゼスラン、ニポラジン、キタゼミン
0.69
Chlorpheniramine ポララミン
1.90
Clemastine タベジール 、テルギンG
2.08
Ketotifen ザジテン、ジキリオン
2.08
Hydroxyzine アタラックス、アタラックス P
2.43
比例障害比率:鎮静作用(眠気)の指標

●花粉症への長期作用型ステロイド薬投与と問題点              目次へ

 内服薬や注射によるステロイドの全身投与は作用が強く、副作用 に注意する必要がある。

●セレスタミン
  セレスタミン中にはステロイドのベタメタゾンは0.25mg/錠が含まれ、2錠では0.5mg、プレドニゾロン換算で約3mgに相当します。作用は強力で長期作用型(半減期は36〜54時間)です。正常の副腎はステロイド薬投与後10〜14日で抑制が起こり始めるといわれていますが、ステロイド薬の種類、一日量によっても異なります。セレスタミンはステロイドとしての一日量は少ないのですが、長期作用型で副腎への抑制効果が強いことが懸念されますので、漫然と長期間使わないように注意します。

セレスタミンは連続投与する場合は2-3錠 /日なら3-5日、1錠/日でも2週間を限度とします。薬剤用量や治療ガイドラインでは一回2錠、一日4回が極量で、2〜 3日の頓服、連用でも一週間を超えないよう注意書きがあります。 その後は、2分の1錠/日、または1錠/日の隔日投与、あるいはステロイド点鼻薬に切り替えて、抗ヒスタミン薬などを併用しながら重症期を乗り切ります。
 長期使用後に急に内服を中止すると、「離脱症状」や「リバウンド」の可能性があります。何らかの理由で長期内服を行った方は、医師と相談の上で徐々に中止してください。

ステロイドの副作用 今日の治療薬南江堂.2001年より改変
重症副作用 ・感染症の誘発・増悪・骨粗鬆症・動脈硬化・副腎機能不全
・消化性潰瘍・糖尿病の増悪・精神障害
軽症副作用 ・異常脂肪沈着(中心性肥満、顔が丸く太る、肩に脂肪が増える)
・多毛・皮下出血・にきび・皮膚線条・皮 膚の萎縮
・白内障・緑内障
・浮腫・血圧の上昇・心不全の悪化
・筋力低下・月経異常・白血球数の増加

●「1回の注射でスギ花粉症のシーズンが 楽に送れる」治療の大きな問題点    目次へ

「1回の注射でスギ花粉症のシーズンが楽に送れる」という週刊紙、新聞、テレビ の報道により、長期作用型のステロイド注射を希望する患者がいます。ごく一部の医療機関で、花粉症治療に徐放性ステロイド薬の筋注が 行われています。この方法を乱用して患者を集めている医師がいることが、医師のモラルとして問題視されています。この様な医療機関では、糖尿病、高血圧、消化性潰瘍、白 内障、その他ステロイド剤の禁忌疾患の使用前チェックもしていないと言われていま す。また、使用中も副作用を検査することなく、患者にも副作用の説明 なく実施していると報告されています。
 ステロイド薬は強力な抗炎症作用をもつ一方、長期に効果のある全 身投与は必ず副作用をおこします。『鼻アレルギー診療ガイドライン』にも 「この方法は望ましくない」と明記しています。ステロイド薬は他の全ての治療法を併用しても効果が不十分な時に、効果と副作用に関する説明を徹底したうえで、行う治療法です。安易に行いないようにしましょう。

●抗原特異的IgE検査                           目次へ
 アレルギーの元になる原因(アレルゲン)を調べる血液検査です。アレルギーの元になる原因(アレルゲン)を調べる検査法には血液抗体検査と皮膚反応テストがあります。血液抗体検査は検査費用が皮膚テストよりも高価ですが、簡便で精度もよく、定量性も優れ、皮膚テストに変わって抗原検査の主流になりつつあります。
  なお、皮膚反応テストはかなり腫れることがあるため、アレルゲンの可能性が高い花粉の飛散時には実施しないほうがよいでしょう。一般的に皮膚テスト、血清IgE抗体が陽性でも、その物質が発症抗原になっていないこともあり、総合的な診断が必要です。
アレルゲンの検査 特異IgE検査 スクラッチテスト 皮内テスト
エキス有効期限   3年 1年
薬物使用 制限なし 少なくとも1週間中止
(風邪薬もだめ)

少なくとも1週間中止
(風邪薬もだめ)

必要時間 短時間(採血のみ) 短時間 やや長い
感度 敏感   敏感
特異性 高い 時に偽陰性 時に偽陽性
局所反応 普通の採血と同じ かゆみ、腫れ かゆみ、腫れ
全身反応 なし まれにある まれにある
結果判定時間 数日 20分 20分
費用 高い 安い 安い
    ウイルス感染予防と疼痛軽減のためスクラ ッチテストの方がよい。
奥田稔:鼻炎診断ガイドライン19998、 p125〜131、メディカルビュー社より一部改変

4)抗原特異的免疫療法(減感作療法)                    目次へ

 減感作療法はアレルギーの元になる抗原を徐々に体に入れて、体を慣れさせていく治療法です。広く用いられる皮下投与法では、スギ花粉症に対して約80%の有効率を示すと言われています。花粉症の自然治癒はごくわずかです。
  長期にわたって症状の出現を抑える減感作療法は、現在唯一の根本的な治療方法です。
 とはいううものの、 減感作療法は長期間通院する必要があり、行っているのはごく一部の人だけです。まれですが重篤な副作用(全身性アナフィラキシー反応)を起こすことがあります。具体的には、薄めたスギ花粉成分を週一回から月一回程度、徐々に量を増やしな がら注射をおこないます。1〜3年で効果がでますが、少なくとも2〜3年は治療を続けます。一般的に、最適な継続期間は3〜5年と言われています。減感作療法では、スギ花粉症の原因タンパクと関係のないタンパクも注射されま す。これらを一緒に一度に大量注射すると強い拒絶反応を起こす可能性があるので少量づつしか増量できません。このため長い時間がかかります。

減感作療法のメカニズム(参考:日経ビジネス 2003.2.24p120-122)
 
スギ花粉のアレルゲンが抗原提示細胞に取 り込まれる
抗原提示細胞はアレルゲンを 加工・断片化し、情報をT細胞へ伝達する。
T細胞はアレルゲンを認識 し、B細胞にシグナルを送る。
B細胞はIgE抗体を作り、放出 する。
IgE抗体が肥満細胞に結合す る。
細胞内のヒスタミン顆粒を放出する。

 

新しい減感作療法(ペプチド免疫療法)                   目次へ

●「スギ花粉症治療米」による減感作療法

花粉症の7つのエピトープを 抽出して一つにする (参考:日経ビジネス2003.2.24p120-122)

減感作療法の考え方を応用した米の研究が進んでいます。
遺伝子組み換え技術により、スギ花粉症の原因となるタンパク質を米でつくり、これを食べるという方法です。
  スギ花粉症米は花粉症に効果のある成分だけを遺伝子操作で作り出すため、最初から大量摂取が可能となります。
  すでに2002年秋のマウスの実験では4日間食べただけで、マウスの花粉症は大幅に改善しています。
  人間用の治療米も2001年春から栽培実験しているが、安全性の問題の解決には時間がかかるので、すぐには手に入らないそうです。

2003.3.3のTV放送「特命リサーチ」では2006年が予定と話していました。

スギアレルゲンとして、2つのタンパク質 (ペクトリアーゼ、ポリメチルガラクツロナーゼ)があり、主要なエピトープは7つ ある。これを集めて米にため込む(7連エピトープ)。

 

●「ペプチド免疫療法」

スギ花粉症を起こすタンパク質の構成成分であるペプチド※のうち、「スギのアレルゲン」と認識される複数のペプチドをエピトープ と呼ぶ。エピトープは人によって異なる。人に対するスギアレルゲンの主要なエピトープは7種類あり、90%の人がこのどれかを認識することがわかっている。大量のエピトープを取り込むとIgGが増加し、T細胞が不活化し、アレルギー反応が中断されます。これを内服薬として投与する方法を三共製薬が研究中とのことです。

※ペプチド:アミノ酸が複数集まり、ペプチドとなり、 ペプチドが複数集まり、タンパク質となる。

参考資料 日経ビジネス2003.2.24 p120-122


5)手術療法                           目次へ

 スギ花粉症には電気凝固、化学的手術、レーザー手術、超音波などで粘膜を焼く治療法があります。鼻粘膜焼灼は簡単に外来で行えますが、繰返し(毎年または隔年)行う必要性があります。しかし、治療後の影響や長期的な治療効果はまだよくわかっておらず、総合的評価は定まっていません。また、鼻茸、鼻中隔弯曲症、副鼻腔炎などの合併症がある場合はより積極的に手術療法も行われます。とにかく、難治性の鼻閉がある場合は耳鼻科に相談しましょう。

6)その他の治療法                         目次へ

 テレビや雑誌で取り上げられたもののうち、試す価値がありそうな乳酸菌食品について紹介します。

●ヨーグルトが花粉症に効くという噂は本 当?            目次へ
マウスを使った実験で乳酸菌が食物アレルギー反応を抑制する効果を持つことがわかりました。ただし、マウスに与えた乳酸菌の菌数は、人間に換算するとヨーグルト21リット ル、ヤクルト400で6本分に相当するそうです。効果発現機序として、腸粘膜が痛むと異種タンパクが体内に進入しやすくなり、 これがアレルギー反応と強めるという。増強されたアレルギー作用は腸の局所にとどまらず、全 身のアレルギー作用をも強めるという。
 あるある大辞典では一日200ml以上のヨーグルトを一年間摂取した約300人中の約 1/3で花粉症の症状軽快したと報告。また、花粉症歴が短い人では一日200ml以下でも有効だった人もいたという。逆に、花粉症歴が10年以上の長い人、喫煙者、幹線道路の近くに住んでいる人は、慢性的に鼻粘膜が荒れて敏感になっているので、効果が弱かったという。
  以上から試す価値はありそうですが、実験で試された乳酸菌の量を参考にする と、ヨーグルトだけでなく、多量の乳酸飲料(サントリーのBikkle、ヤクルトなど) を併用した方がよいように思います。女性ならついでに便秘もよくなります。当院でもヨーグルトとヤクルトを飲んでとてもよくなった人が何人かいます。できれば年中これらを摂取することをお勧めします。

1)Clin.Exp.Allergy;32、563-570、2002 日経ヘルス2003年1月号より
2)あるある大辞典 (フジTV)http://www.ktv.co.jp/ARUARU/

●寄生虫感染の「アレルギー疾患抑制説」 について           目次へ

 日経CME 2003.2月(Medical tribune 2003.2.13号付録) 第52回日本アレルギ ー学会報告より(2002.11月)

マスコミなどでは寄生虫、とくに蠕虫の感染が減ったためにアレルギー疾患が増えたと報道されているが本当でしょうか?「アレルギー疾患抑制説」蠕虫感染によってアレルゲン特異的IgE抗体産制が抑制される、あるいは蠕虫などにたいする特異的IgEが増加するために、ハウスダストな どに対する特異的IgE抗体が産生されても、肥満細胞上のIgEレセプターとの結合が阻 害され、アレルギー疾患の発症が抑制されるといったメカニズムを想定しています。

山梨医科大学耳鼻咽喉科の松崎全成先生の報告内容

エクアドルでは都市部を中心にアレルギー性鼻炎が増加しています。都市部の中学生159人、農村部の中学生108人を対象にアレルギー性鼻炎の有病率、検査所見、寄生虫感染との関係を検討した結果です。

  都市部 農村部
アレルギー性鼻炎の有病率 25% 12%
寄生虫保有率 44% 73%

一見すると寄生虫感染がアレルギー性鼻炎を抑制するともとれる結果でした。しかし、都市部の中学生を蠕虫感染者と原虫感染者に分けて検討すると、アレルギー性鼻炎の有病率は、いずれも25%前後で統計的に差がなかった。これから、都市部における寄生虫感染の減少はアレルギ ー性鼻炎増加の原因ではないと推測された。逆に、アレルギー患者では蠕虫に対するIgE抗体産生が亢進し、蠕虫が排除されや すくなるために蠕虫保有者が少ないと考えられました。