■■ E型急性肝炎 ■■
公開 2003.10.1 更新 2003.10.07  HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す


 厚生労働省と感染症週報のE型肝炎の解説をもとに、ここではE型肝炎の簡単な解説をします。

主な参考資料 
1) 厚生労働省ホームページ:http://www.mhlw.go.jp/
 食肉を介するE型肝炎ウイルス感染事例について(E型肝炎Q&A) 2003.10.1
2)感染症週報:http://idsc.nih.go.jp/ 2003.10.1
   感染症の話(E型肝炎)

1)E型肝炎とは?

 E型急性肝炎とは、E型肝炎ウイルス(HEV)による急性肝炎です。重症(劇症肝炎)になることは稀です。また、B型肝炎やC型肝炎のように慢性化することはありません。終生免疫(一度感染すると、生涯免疫が続き、発症しない)が成立するか否かは不明です。人だけでなく、家畜も感染するようです。 

 E型急性肝炎は 主に発展途上国で散発的に発生している疾患です。 ときに飲料水などを介して、大規模に流行することもあります。日本でも近年輸入感染症として発生がみられています。2003年8月に兵庫県において、野生シカ肉の生食を原因とするE型肝炎ウイルス食中毒が英医学誌「THE LANCET」に掲載されました。また、北海道で市販されていた豚レバーの一部からもE型肝炎ウイルスの遺伝子が検出されました。

 日本ではまれな病気だと思っていたところと、 読売新聞(平成14.07.23)の記事からは予想以上に多いようです。
国立感染症研究所(感染研)が全国調査で、様々な年代の健康な人から採取した血液を検査したところ、「過去にE型肝炎への感染したことを証明する抗体が、900人中49人(5.4%)から検出された。」と報告しています。このことは国民の二十人に一人が感染している可能性が高いことを示しています。
 E型肝炎は、感染しても発症せず終わる「不顕性感染」が多いといわれ、感染者本人が気がつかないうちに感染が広がっている可能性があります。

2)E型肝炎の流行地域は?

 E型急性肝炎は開発途上国では日常的な疾患であり、散発的に発生しています。 ときに洪水などの後に汚染された飲料水などを介し大規模な流行を引き起こす場合があります。

 一方先進国においては、近年、国内でも感染動物の非加熱生食によって引き起こされています。

左図
  E型肝炎の発生状況、古谷信彦ほかより:モダンフィジシャン Vol.20, No.11, 2000

 

3)感染経路は?

 E型肝炎ウイルスはこのウイルスに汚染された食物(生肉、生肝臓などや水等の摂取により感染することが多いとされています。。感染した人の糞中にウイルスが排出されて、他人へ伝播する(糞口経路)、 中でも飲料水の汚染による大流行がこれまでに海外で報告されています。ごく稀に、感染初期でE型肝炎ウイルスが血液中に存在している人の血液を介して感染することもあります。 

4)症状は?

  他の肝炎ウイルス同様にE型肝炎ウイルスの唯一の攻撃対象臓器は肝臓です。E型肝炎の臨床症状はA型肝炎と似ています。
  感染から発症までの期間(潜伏期間)は、2〜9週間(平均6週間)です。多くは無症状(不顕性感染)です。特に若年者は無症状のことが多い。E型肝炎は青年と大人の方が発症しやすい。まれに数日の倦怠感、 食欲不振等の症状が先行することもあります。症状がでた場合には黄疸(皮膚や眼球結膜(俗に言う白目)が黄色くなる)が多い。他には、発熱、悪心・腹痛等の消化器症状、肝腫大、肝機能の悪化(トランスアミナーゼ上昇・黄疸)が出現します。

5)診断の決め手は?

 HEVウイルスに特徴的な、「血液中の免疫抗体」というものを調べます。特殊な検査になりますが、ウイルスの遺伝を検出する方法も、一部の研究所では可能です。

6)治療方法は?

 他のウイルス性肝炎と同様に、E型肝炎の根本的な治療方法は現在はありません。対症療法のみです。劇症化した場合には、生命の危険性が高く、血漿交換、人工肝補助療法、肝移植などの特殊治療が必要となります。

7)経過と予後は?

 多くの場合、安静臥床により治癒しますが、まれに劇症化する人があります。E型肝炎による死亡率は1〜2%で、A型肝炎の10倍といわれています。妊婦は重症化しやすく、妊娠第三期に感染した場合は致死率が20%と報告されていますので、特に注意が必要です。

8)予防方法は?

●手洗い、飲食物の加熱が重要
 A型肝炎ウイルス及びE型肝炎ウイルスの感染経路は経口感染です。ウイルスに汚染された食物や水の摂取により罹患することが多い。予防には手洗い、飲食物の加熱が重要です。ワクチンは開発段階です。

● 流行地域では、飲料水や非加熱の食品に注意
 E型肝炎は、中央アジアでの流行は秋に見られる一方、 東南アジアでは雨期に、 特に広範に洪水が起こった後に発生します。水系感染による大流行が中央アジア、 中国、 北アフリカ、 メキシコなどでもあります。E型肝炎流行地域へ旅行する際は、清潔の保証がない飲料水(氷入り清涼飲料を含む)、非加熱の貝類、自分自身で皮をむかない非調理の果物・野菜をとらないように注意する必要があります。

● 国内産でも野生動物の生肉、生レバーなど避ける。 
  2003年北海道で、E型肝炎の発生があり、市販されていた豚レバーからE型肝炎ウイルスの遺伝子が検出されています。これらは加熱不十分な場合には人にE型肝炎ウイルスを感染させる可能性があります。十分に加熱して摂食した家族では感染がなかったことが分かっています。
 E型肝炎ウイルスだけでなく、野生の動物から伝染する病原体は一般に通常の加熱によって死滅します。
野生動物(シカやイノシシ)の肉等を生で食べることは避けましょう。シカやイノシシだけでなく、ブタ、めん羊、山羊のE型肝炎ウイルス感染も知られています。これらの動物の肉等を食べる際には加熱を十分に行いましょう。

 ハム・ソーセージ等の加熱済み食品は心配はありません。豚レバーなどに万一ウイルスが残っていたとしても、通常の加熱調理を行えばE型肝炎ウイルスは感染性を失うため、豚レバーなどの豚由来食品を食べることによる感染の危険性はありません。
  腸管出血性大腸菌食中毒(O157のこと)の予防の観点からも若年者、高齢者のほか抵抗力の弱い者については、家畜でも生肉等を食べさせないようにしましょう。 とくに、妊婦や高齢者に感染すると劇症肝炎を発症し、死亡する率が高いので注意が必要です。