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このページは、医療・医学分野に限らず私が思ったことを記したサイトです。
あくまでもその時の個人的な意見です。また、後に考えが変化することもあります。


【医療】医療費削減のもたらすもの。 2007.05.22記 2007.07.30修正
 「開業医の初診・再診料下げ」、日経新聞5月18日朝刊のトップ見出しである。ある厚生労働省関係者の言い分をそのまま記事にしたのであろう。なんと翌日には厚生労働省はこの内容を否定した。これから審議されることであって、決定されたことではないという。しかし、火のない所には煙は立たない。そういったことが今年の夏に審議されるのであろう。
 新聞では「開業医の初診・再診料下げ」の理由を「病院と開業医の較差を是正し、勤務医が開業医になるのを抑制する」「開業医の時間外診療・往診を促す」ためとしている。また、世論を味方にするため、「開業医の月額報酬は平均229万」、「勤務医は97万」とある。
 後者の比較は 支払いを減らしたい側の都合のよい分析方法で、月額報酬は給与とは随分性質が異なる。月額報酬は給料ではなく、会社でいえば社長の給料と会社の利益を合計した金額である。これから開業に要した1億円近い借金を少しずつ支払い、将来の機器買い換えのために40%近く税金で取られた残りから、貯金する必要がある。 
  また、勤務医の対象には研修医や若手医師が多い。さらに数値は給与であって、賞与は入っていない。法人化してなければ開業医の賞与はゼロである。
 開業医の収入の柱は「初診・再診料」、「特定疾患療養管理料」、「検査」である。「初診・再診料」は病院の再診料570円、開業医710円、「特定疾患療養管理料」は(病院0円、開業医2250円)である。ところが病院の初診料は2700円と開業医と同じ、しかも紹介料(保険)または紹介状がない場合は保険外で特別料金(1000円?くらい)を自由に設定できる。また、病院では高額な検査を勧める機会が多くなり、検査料が高い。
  特記すべきは特定疾患療養管理料で開業医が儲けているのではない。病院から安定した軽症患者を減らすために、検査の必要の少ない安定した外来患者の診療では大病院は儲からないように、数年前に厚生労働省が誘導するために病院の特定疾患療養管理料を廃止したのである。病院が安すぎで、開業医が普通なのである(対GDP比では日本の医療費は先進国の中でもっとも安く、WHOも国民全体が安い費用で医療を受けれる日本の医療を高く評価している)。
  ところが、新聞ではさも病院がまともで、開業医が暴利をむさぼっているような記載である。事実は大きく違っている。
  厚生労働省は政策にあめと鞭を使ってくる。数年前には病院の外来診療を鞭でたたき、病院は外来診療の赤字を入院診療で補う経営形態になっている。今度は開業医はこれに比べれば甘いと開業医を鞭でたたくつもりである。
 私がこの記事に驚きと憤慨を覚えるのは、「開業医は悪者で勤務医は犠牲者」、「開業医の優遇が勤務医がやめる原因」という論調である。くたくたになって、希望をなくした勤務医は、それでも医療分野でしか能力を生かせないために、開業医へと逃避するのである。その逃げ場も開業医同士の競争激化で狭くなっている。ここで開業への道を閉ざすと一時的には勤務医の開業が減るだろう。しかし、長期的に勤務医は疲弊し、もはや報われない医療の担い手がいなくなる。
  いや、医師数、医学部希望者数は減らないだろうが、「理想的な医療を目指す医師」は減り、「経営最優先の医師」の割合が増加すると予想される。「医療は算術」が一般的となるだろう。多くの薬局でほとんど意味のない高価なサプリメントを言葉巧みに売りつけているように、儲かる医療を目指し、不必要な検査、不必要な投薬を行う機会が間違いなく増加するだろう。
 開業医で一番多い形態である外来診療主体の診療所のおもな収入は、1)「初診・再診料」、2)「特定疾患療養管理料」、3)「検査料」である。1)2)を減らすと3)を増やそうとするだろう。または3)に頼る経営の診療所が生き残ることになる。これがどんな影響を与えるか?
 私のみる限り、診療所には、良心的な診療を行っている所と不必要な検査や不要な処方をたくさんしている所がある。これに関して、患者さんからの人気は全く的はずれで、後者の方が人気が高いことも多く、「市場原理により、良心的な診療所が残る」と言うのは幻想に過ぎない。不要でも最新の検査機器を使うと「高級な診療を受けた」気になるようだ。その検査結果を踏まえて、薬を飲んだ方がよいと言われると疑いも持たず、簡単に納得してしまっている高齢者が周囲には大勢いる。
  たとえば、「頭が痛い、首が凝る、脳梗塞の前ぶれではないか」と訴えて、脳外科の開業医を受診。MR検査を勧められ「小さな脳梗塞の後がある。隠れ脳梗塞です。血液をサラサラにする薬で脳梗塞を予防しましょう。」と言って、脳梗塞かどうかもわからない所見を脳梗塞と診断し、その種類の脳梗塞の予防に効果があると証明されていない投薬を受けている人が現在たくさんいる。脳ドッグ学会もガイドラインの冒頭でこの実態を認めている。
 このように医療費削減ばかりを目指すと肝心の中身が破壊されてしまう。「悪貨は良貨を駆逐する」ように、いい医師がまともな診療を行いにくい環境に近い将来なりそうである。サッチャー首相が英国の医療費を先進7国で最低とした時期に英国の医療壊滅が起こった。その後ブレア首相が医療費を1.5倍に修正したが、医療の再生の道はまだ遠い。今、日本は先進7カ国で対GDP比で最低の医療費である。「次は日本で医療崩壊がおこる可能性が高い」と考えるのは、私だけではないと思う。あなたの周辺で、小児科診療、産婦人科診療、救急医療の後退が起きていませんか?これらは医療崩壊の始まりだとは思いませんか?

--------------- 以下2003年脳ドックのガイドラインより抜粋 -----------------
脳ドックのガイドライン
 はじめに  画像診断法の進歩により、少ない侵襲で脳の形態が診断できるようになり、磁気共鳴映像(MRI)を主な検査として脳の診査を行う「脳ドック」と呼ばれる試みが1988年頃よりわが国で始まった。 国民一般の脳卒中、痴呆の予防への高い関心と、わが国における高度な診断装置の広範な普及にたすけられ、脳ドックは1990年代はじめ頃から磁気共鳴血管撮影(MRA)の実用化とともに多くの施設で実施されるようになった。  この新しい形の検診は現在我が国でのみ行われており、脳および脳血管疾患の早期発見と予防という点で大きな期待がかけられている。 一方、問題点として、個々の施設で脳ドックの目的が異なる、検査の精度が必ずしも十分でない、発見される異常の意義・対処法が確立されていない、また、医療経済上の効果が不明である、などがあげられている。
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