【アルコール依存症(重篤問題飲酒者)の自己診断】 |
KAST(Kurihama Alcoholism Screening Test) 久里浜アルコール症センター
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質問表(CAGE) 2項目以上陽性でアルコール依存症の可能性が高い | |
1) | 飲酒量を減らさなければいけないと感じたことがありますか |
2) | 他人があなたの飲酒を非難するので気にさわったことがありますか |
3) | 自分の飲酒について悪いとか申し訳ないと感じた事がありますか |
4) | 神経を落ち着かせたり、二日酔いを治すために「迎え酒」をしたことがありますか |
●問題飲酒者の対策●
1)アルコール依存症者まで至っていない問題飲酒者
どこから問題とするかについては、文化的違いを反映して診断基準ごとに違いがみられる。世界保健機関WHOによる診断基準(ICD-10)では"有害な使用"という概念を提唱している。"有害な使用"では、正常飲酒者と問題飲酒者との鑑別に、「健康に害を及ぼす使用パターン」を用いている。それに対し、米国精神医学会の診断基準(DSM-IV)の"物質乱用"では、それに加え社会的な問題も含めている。
また、久里浜アルコール症センターの「プレアルコホリック(アルコール依存症予備軍?)」概念では、アルコールに関連した問題であればその種類にかかわらず問題飲酒としている。
このような問題飲酒者に遭遇したときにはどのように対処すればよいのであろう。必ずしも断酒が必要というわけではなく、量や頻度を減らし飲酒問題が起こらないように飲酒すること(節酒)が可能な例もある。しかし節酒といっても1回あたりの飲酒量を減らすのは失敗することが多く、飲酒頻度を下げるように指導している。久里浜アルコール症センターでの治療では、前述の指導の前に、最初に一定期間(理想的には半年)の禁酒期間を設けるようにしているが、半年後も約半数が断酒を継続し、残りも飲酒頻度は1/5に、飲酒量は1/10に減少するなど一定の成果が得られている。半年間禁酒したにもかかわらず結局アルコール依存症となった例も多く、治療後もアルコール依存症のハイリスク群である。
2)アルコール依存症者
アルコール依存症と、それ以外の飲酒者との決定的な違いは、「節酒が不可能である」という点である。アルコール依存症者は、長期間断酒しても少量のアルコールにより強い飲酒欲求が出現し、元の大量飲酒に戻ってしまう。そのため生涯にわたる断酒が必要となってくる。また依存症にまで至った例では、一般医療機関での治療は困難であり、アルコール専門医療機関での入院治療が必要となることが多い。
現在では、3ヵ月程度の入院で作業療法や集団精神療法などを組み合わせた、いわゆる"久里浜方式"と呼ばれる治療法が主流となっている。しかし、専門治療機関で治療したとしても退院1年後の断酒率で30%程度、それに対し退院後3年間での死亡率は15-23%となっており、予後はよくない。
退院後の断酒継続のためには、飲酒欲求の存在を前提にして、意志だけに頼らない断酒のための環境づくりが重要となってくる。従来から断酒の3本柱としてあげられているのが通院、抗酒剤の服用、自助グループヘの参加である。通院は、断酒のモチベーション維持や再飲酒時の早期介入などの目的がある。特に退院直後は再飲酒の危険性が高いため、専門医療機関への通院か、密接な連携が望ましい。
またもうひとつの柱である抗酒剤は、アルコールが分解されてできる有毒、不快物質であるアセトアルデヒドの分解を阻害することで、人工的な"下戸"を作り出し、飲酒を防止する。Cyanamide(シアナマイド)とDisulfiram(ノックビン)があるが、Cyanamideは慢性肝炎を起こす可能性が高く、通常はDisulfiramを少量(0.2g程度)処方することが多い。Disulfiramは、まれにノックビン精神病を引き起こすことがあるが、少量ならその可能性も少ない。ただ、いずれの薬剤も飲酒欲求を抑える作用はない。
これに対し今年から日本での治験がはじまったAcamprosateは飲酒欲求を抑制する作用があり、臨床への導入が期待される。
また自助グループの代表的な例としてはalcoholic anonymous(AA)と断酒会があげられる。自助グループヘの参加は、単に断酒率を向上させるだけでなく、依存症者としてのこれまでの生き方を変える、真の意味での回復のためには欠かせない条件である。
参考資料
飲酒(アルコール症の治療も含む)
真栄里仁・樋口進 独立行政法人国立病院機構 久里浜アルコール症センター(Medical Practice 2006.9月号p1621-1625)の一部を抜粋