■■  5年間死亡率リスク計算機(郡山市) ■■

公開日 2005.11.02  更新日 2005.11.02  メニューを表示する  メニューを隠す
注:2005年11月4日号「週刊朝日」、2005年11月20日発売医療者向け医学専門雑誌「性差と医療(12月号)」に掲載(予定)された郡山市の健診資料をもとに大
櫛陽一教授(東海大学基礎医学系)が発表した内容をプログラム化したオンライン計算機です。


質問1:性別
男性   女性
質問 2:年齢
40-44歳  45-49歳  50-54歳  55-59歳 
60-64歳  65-69歳  70-74歳  75-79歳 
質問3:LDL(悪玉)コレステロール値(mg/dl)
100未満  100-129  130-159  160-189  190以上 
 LDLコレステロール値= 総コレステロール値 - HDL(善玉)コレステロール値 -0.2×中性脂肪値で計算。ただし、中性脂肪値が400mg/dl以上では誤差が大きくなるので、直接測定したLDLコレステロール値を使う。
質問4:HDL(善玉)コレステロール値(mg/dl)
40未満  40-44  45-49  50-59  60以上 
質問5:最高血圧値(mmHg)
120未満 120-129 130-139 140-159 160以上
質問6:最低血圧値(mmHg)
80未満  80-84  85-89  90-99  100以上
質問7:糖尿病ですか?
いいえ  はい
質問8:タバコを吸いますか?
いいえ  はい

 解説
 この計算プログラムは大櫛先生が作成した「5年死亡率計算表」計算表をもとに作られている。計算表は福島県郡山市で99年度から2004年度の6年間にわたって行われた健康診断結果に基づいている。対象者は39歳以上の男性14,439人(平均60.43歳)と女性2,4350人(平均59.27歳)、計38,789人である。6年間で男性388人、女性268人が死亡した。健診のときにすでに重大な病気がある人の影響を除外するために、1年以内に死亡した人を除外すると、死亡者は男性357人、女性257人となった。この資料をもとにどのリスクがどの様に寿命に影響しているかを分析し、この先5年間に死亡する確率を予測する計算表が作成された。

【当院の意見】
注意してほしいことは、ここで扱われた健診の資料には、
1 ) 対象者が合併症のないひと(一次予防)とすでに重篤な合併症のあるひと(二次予防)が混在している。高血圧の治療の有無、糖尿病合併症の有無、脳卒中の既往の有無、心筋梗塞の既往の有無など重要な要素が考慮されていない。
 脳卒中、心臓病(狭心症、心筋梗塞、弁膜症、心筋症、心房細動)、腎不全など生命予後に関係する合併症の有無が考慮されていない。健診ならこれらの合併症がないひとが多いと考えるかもしれないが、開業医に通院する人は健診を勧められることが多く、健診の受診率が高い。 このため合併症の保有率はかなり高いと考えられる。一次予防と二次予防では死亡率、重症疾患発生率が大きく異なるので、ほとんどの調査ではこの両者を明確に分別している。

2 ) 判定の基準が死亡のみで、脳卒中、心筋梗塞、入院を必要とする重症疾患などの発症が含まれていない。
  しかも、これらは5年間という短期間では死亡に至らないことも多い。また、住民の移動が少ない地方で行わないと高齢者が重症疾患になると、子供のいるところに移動することが少なくない。そこで死亡することも少なくない。以上より、危険因子の影響は過小評価されやすい。

3 ) 血圧値など一回のみの測定では、十分な高血圧の評価ができない。
 診療中に血圧の高い人の約20%は家庭での血圧が正常(白衣高血圧)と言われている。高血圧評価には数回の平均値、また降圧剤の使用の有無が不可欠、できれば左室肥大や腎機能障害などの合併症の有無が高血圧の重症度を判断するのにあったほうがよい。

4 )血圧が低過ぎると死亡率が高くなる?
 「血圧が低いと死亡率が高くなる」結果の解釈には、もっと調査が必要である。 一見低血圧が死亡率を高めると解釈されやすいが、いままでの調査では「低血圧は死亡率を高めない」と考えられており、低血圧患者(女性に多い)は、症状が強くなければ治療の必要はないし、治療により血圧をあげても症状の改善のみで、疾病の予防にも死亡率減少にも役立たないとされている。
  これらの報告は、製薬会社の利害関係から、ゆがめられた結果とは考えにくい。とするとどう解釈すべきか、私の外来患者をみると血圧が低い患者は高度の心臓機能障害の合併があったり、重症の全身疾患があったり、栄養不良の人が多い。血圧が低いために死亡率が増大したのではなく、血圧が異常に低い人の中にはこのような重症疾患を合併した人が多いということではないかと思う。1)で述べたように重症疾患合併症をあからじめ除いておかなければ、「血圧は低すぎるとよくない」という間違った結果が導かれやすくなる。

  以上、健診データをもとにした5年間死亡率を参考とする場合は、大雑把な死亡率を知るのには役立つが、高血圧治療、心疾患予防の参考にするには限界があることを認識していた方がよい。