【むずむず脚症候群の診断と治療】
公開日2007.8.29 更新日2007.8.30 
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日本では、この疾患概念はまだ新しく、当院も含めてほとんどの医師は十分な知識を持っていません。そのため、治療に当たっている医療器機関も非常に限られています。しかし、この疾患で悩む患者さんの数は少なくないようなので、浅学ながら紹介します。ここで紹介された情報を参考して治療した場合のいかなる結果についても、当院は全く責任を負いません。必ず、担当医師に指導に従ってください。

レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)RLSとは  
  レストレスレッグス症候群(rest-less legs syndrome:RLS)は、「むずむず脚症候群」、「下肢静止不能症候群」とも呼ばれる。RLSはあまり知られておらず、一般診療では見逃されやすい疾患です。日本では人口の2-3%はいると推定され、患者数は少なくはない。40代以降に好発し、女性に多い(男性の1.2-1.4倍)。今後、疾患の認知度が上がっていくと思われる。
●RLSの症状
 足(脚)が「じっとしていられない感じ」、「むずむずする」、「痒い」、「痛い」、「虫が這うような」、「なんとも形容しがたい不快感」、さらには「脚の中に手を入れてかき回したいほど苦しい」などの自覚症状を訴える。症状は夜間安静時、特に睡眠時間帯に増悪する。年単位で徐々に進行する慢性疾患である。ほかに以下の特徴がある。

  1)不眠患者の10%程度(特に睡眠薬非反応症例に多い)。
  2)自然治癒はごくまれで、進行性増悪することが多い。
  3)重症例では不安、抑うつなどの精神症状を合併しやすい。

●RLSの原因
 現在、RLSの原因は明らかになっていない。ドパミンの機能低下、中枢神経における鉄分不足による代謝異常、脊髄や末梢神経の異常、遺伝学的要素などが考えられている。RLSは特発性と2次性に分けられるが、後者は、鉄欠乏性貧血、慢性腎不全(透析患者)、妊娠、胃切除後、慢性関節リウマチ、パーキンソン病、多発神経炎、脊髄疾患、などに伴って発症する。三環系抗うつ薬ないしSSRl、カフェインはRLSの発症・増悪の誘因になることもある。
  遺伝的素因に関しては、1)RLS患者の1親等では3-5倍の有病率になる、2)RLS症例の34-63%に家族歴がある、3)1親等の39%に罹患者が存在する、4)1卵性双生児12ペアのうち10ペアでRLSが一致していた、5)30歳未満の症例では、常染色体優性遺伝の形態を示す、などがわかっている。

●RLSの診断基準 
むずむず脚症候群の重症度診断の自己チャックへ

 1)脚を動かしたいという強い欲求が不快な下肢の異常感覚に伴って、あるいは異常感覚が原因となって起こること。
 2)その異常感覚が、安静にして、静かに横になったり座ったりしている状態で始まる、あるいは増悪する。
 3)その異常感覚は運動によって改善すること。
 4)その異常感覚が日中より夕方・夜間に増強すること。
 (IRLSSG/MHworkshop;SleepMedicine4[2003]101-119)より。
 さらに、Ilonka Eisensehr博士(ルートウィヒマクシミリアンス大学病院神経内科睡眠検査室、ミュンヘン)は「診断が正しいことを確実にするために、症状の発現時に患者にレボドパ(ドーパ DOPA)100mgを服用させて効果があることを確認するとよいとしている。この時は必ず即効型の製剤を使うこと。」と述べている。
●RLSの治療ガイドライン
 RLSは慢性疾患であり、薬剤の投与で症状は軽減されるが、投与を中止したり、放置することによって病状は徐々に悪化していく。「間歇的(軽症)」、「日常的(中等症)」、「難治性(重症)」の3つの重症度分類に沿って治療する治療ガイドラインが欧米にはある(日本にはない)。
  それを参考にすると、
1)一般療法
  日常生活において誘発因子となるカフェイン、アルコール、喫煙を避け、就寝前に脚のストレッチやマッサージをおこなう。
2)薬物療法 :薬品名はできるだけ商品名で記載しました
 一般療法で十分な効果が得られないときは、薬物療法を考慮する。症状を軽くする治療薬があるが、全例で満足できる薬剤はない。また、これらの薬剤は副作用も少なくないので、注意深く使う必要がある。なお、欧米ではよく使われている薬剤でも、日本ではまだ承認されていない治療薬が多い。
 軽症例の薬物治療としてベンゾジアゼピン系鎮静剤(クロナゼパム:商品名ランドセン、リボトリール)が主に使われている。クロナゼパムは最初に処方されることの多い薬であるが、昼間の眠気が生じやすい。ほかのベンゾジアゼピン系鎮静剤(商品名:コンスタン、ハルシオン、ドラール、セルシン)または非ベンゾチアゼピン系鎮静剤(睡眠薬:マイスリー)も使われる。これらは睡眠薬として一般的によく使われている。鎮静剤では、逆に症状が悪化することもあるので注意がいる。
 中等症や重症では、パーキンソン病治療薬として使われるドパミン受容体刺激薬(プラミペキソールとロピニロ一ル)、ドパミン製剤(レボドパ:商品名Restrexなど)なども有効とされている。しかし、症状が悪化することもあるので、軽症例には使わない方がよい。このうちプラミペキソールとロピニロ一ルは、欧米ではRLS治療薬として承認されているが、日本ではまだ臨床試験の段階である。プラミペキソールは重症例にとって最善の薬とされ、副作用が少なく、最重症例の85%に効果があったとされている。投与前にRLS重症度スケールが25点前後だったのが、4週後には10以下になったという報告がある。しかし、高用量のドパミン製剤の投与を続けると症状の悪化やリバウンドを招くことがあるので注意する。
  欧米では麻酔性鎮痛剤オピオイド製剤(阿片製剤)が盛んに使われている。この場合、低用量で充分効果があるという。症状を緩やかに改善する程度に服用し、薬の休日(数週間ごとに数日間薬を抜く日を作ること)を定期的に取れば、薬物中毒に罹ることはないとされている。しかし、長期にわたる投与で依存・濫用の危険性があることから、日本ではRLSには適応は認められず、鎮痛目的でしか使えない。
 ほかに有効とされた薬として抗痙攣薬のニューロンチン{日本未発売}、テグレトール、デパケン、マイソリンなどがある。 一部の降圧剤(カタプレス、インデラル)や抗うつ剤(トフラニール、レスリン、トリプタノール}、多発性硬化症の薬リオレサールが効果的だった例も報告されている。
【当院の意見】
 潜在患者数は多いようです。治療薬は副作用の少なくない薬剤が多いので、できるだけ専門医に紹介したいと考えています。しかし、紹介する診療科は神経内科または精神科でよいのか、その医師がこの疾患の治療に詳しいのか、情報不足で医師の私でも判断が難しい。

参考資料
●The Mainichi Medical Journal 2007.7月号p594-596:「レストレスレッグス症候群(上)」代々木睡眠クリニック院長 井上雄一

●The Mainichi Medical Journal 2007.8月号p682-683:「レストレスレッグス症候群(下)」代々木睡眠クリニック院長 井上雄一
●Medical Tribune 2006/3/23

●むずむず脚症候群の治療(アメリカ版の翻訳解説): http://www.geocities.jp/yoshinobu3710/treatment.htm